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データだけがすべてじゃない!ユーザーとメーカーの温度差

「食のトレンド」に取り組んでいくなかで、いつも悩まされることがあります。

それが、ユーザーとメーカーの温度差です。

a0001_016860_m以前、ブームになっていた特定の調味料について当時「この調味料はどこまで伸びますか?」と複数の取引先から質問されました。答えは簡単で、まず、その素材を食べてみればよいのです。もちろん質問をされた担当者さんは皆さん食べていらっしゃいましたが、残念ながら「伸びると思う」と答えた方は一人もいらっしゃいませんでした。また、データで本来伸びるはずのタイミングに伸びない、実態調査でほとんど出現しないことで、一時的なブームになる可能性の高いことが早い段階でわかりました。案の定、このブームは失速してしまいましたが、正体がわからないままで商品開発に大規模な投資をしてはいけません。中にはブームに乗ろうと突っ走り、失敗したという話もいくつか聞きましたが…。

これが、ユーザーとメーカーの温度差です。

また、最近あるスーパーのバイヤーさんと売場担当者さんとの話に立ち会った際のことです。ある惣菜の味を変えるために、バイヤーさんが持ってきた業務用調味料を試食していました。メーカーが時代の健康志向に合わせ、試行錯誤で薄味・減塩でリニューアルしたのですが、その調味料を使った商品の購入者は、濃い味を好む肉体労働者やサラリーマン男性だということが売場担当者のなかで実感値としてはっきりしていたのです。残念ながらこの手の男性は、ショッパーとしては影が薄くポイントカードも持っていないためデータ化しにくくメーカーから見えないのです。

これも、ユーザーとメーカーの温度差です。

a0002_004836_m「健康志向の時代=薄味・減塩」という単純な話ではなく、むしろ夏場に塩分やカロリーを多く取らなければならない人たちがいます。一般論や偏ったデータだけでは、こたえるべきユーザーのニーズからずれてしまうことになります。

確かにデータや調査で大きなヒントや気づきを得ることは多々あります。一方で、データから見えないことも多々あります。多くの情報が手に入りやすい時代になった反面、どこに行ってもデータに基づいた企画提案が多くなりがちです。現場の声や消費者の声を聞き、データと融合することが大事だと改めて実感する出来事でした。食の見える化は奥が深いです!

ブームは一発屋、トレンドは実力派ともいえます。「食のトレンド」はブームでなくトレンドに重点を置いています。6月にじゃがいもが伸びるのは一目瞭然ですが、じゃがいもがいつ、どこで誰に、どんな食べられ方をしていて、なぜそれを食べたのか、今後どうなっていくのか、その全体像を把握することが大切です。日本人にとってじゃがいもといえば、おかずに使われる野菜や、フライドポテト…のような認識になっているのかもしれませんが、じゃがいもを主食(=日本人にとっての米)とする国も世界にはたくさんあるのです。

他社との差別化をはかり、ユーザーに商品を手に取ってもらえるよう、私どもの「食のトレンド」から新発見をご提案します。まずは食の全体像を俯瞰することが、最も大切だと私たちは考えています。

【シニアとポストマタニティ】三世代消費シーンの食のトレンド

三世代消費は無視できないボリューム層

メーカー各社が本格的に取り入れ、一層その重要性が高まっている「子ども・両親・祖父母」の密接な生活シーンにフォーカスした「三世代マーケティング」。特に三世代が近接で別居しているケースは大きなインパクトを持っています。今回は三世代シーンの食のトレンドについて整理します。

…団塊世代の流入エリアと、その子どもたちの世代が流入するエリアは、都心部を除けばほぼ重なることになる。つまり、親子の世代が同じエリアに流入しているのだ。
『辻中俊樹・団塊が電車を降りる日』(東急エージェンシー、2005年、130頁)より

三世代近接別居がボリュームを持っていることは人口動態が関係していますが、子育て中の夫婦が(特に妻方の)実家の近くに住み、小さな子供を連れて実家に行って過ごすのがこのシーンの典型です。この三世代の接点が週に1回程度、年間50回以上あるといわれています。この場合、実家の両親が娘夫婦の生活をサポートする側面と、孫と過ごす時間的価値による相互の関係が成り立っています。妻方の実家になると、妻にとっても気を使わず日頃の育児疲れを癒す事ができる事もあり、遠慮のないシーンの中で三世代の日常的な関係性が築かれていきます。

実家から持って帰る食品は何?

実家からの帰りには果物、パンや惣菜、ソーセージやベーコンなどの加工食品などをもらって帰ってくることが多々あります。この時のソーセージや練製品はナショナルブランド(NB)商品が多いのには理由があります。このNB商品の購入者が実家の両親であることは想像に難くないところです。PBとNBの味や質の違いを知っているのが実家の両親であり、価格を比較して敬遠するのが娘夫婦、ここに孫が食べるという心理的なスイッチが入り、NB商品が娘夫婦に贈与されるというメカニズムが働くわけです。また、販売データではシニアの購入頻度が高いとされるヨーグルトやチーズのように、頻繁に遊びに来る孫が食べるために買い置きをするという三世代連鎖消費の性質が強い商品も存在します。

孫と一緒にマクドナルドに行きますか?

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マクドナルドもファミリーレストランも現在のシニア層と共に成長してきた。

実家の両親が団塊世代と仮定して食の背景を考えてみましょう。1971年に日本一号店を出店したのがマクドナルド。この年、団塊世代の先頭である1947年生まれの人の年齢は24歳でした。同じくすかいらーく一号店の出店は1970年です。団塊世代はマクドナルドやすかいらーくと一緒に成長してきた世代ということができます。当時のマクドナルドやすかいらーくはプレミアム感のあるアメリカンフードという位置づけでした。家族みんなで特別な食事をする場所として、マクドナルドやファミリーレストランの存在価値が高かったわけです。特に最近は何かと暗い話題の多い食事を敬遠する心理と、歳を重ね「旬」が食の決定要因になった今では、マクドナルドで孫とハンバーガーを食べることの価値が低下するのもやむを得ないのかもしれません。

ヤオコー(スーパー)の売場が支持される理由

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生活と生活の転換点としての<間食>シーンが増加している。間食シーンの増加に合わせてイートインの可能性も広がっている。

一方でデパ地下などの中食や、内食のクオリティは高くなりました。ヤオコー(スーパーマーケット)の富士見ららぽーと店は、ヤオコーの店舗の中でも特に実験的な試みをしています。スーパーの中にデパ地下(総菜売場)や駄菓子屋(菓子売場)が入っているような雰囲気といえば近いでしょうか。NB品は店舗中央に整然と並んでいます。ドライフルーツのケースなど、素材の品質はもちろんですが買物をする空間の提供にも配慮されているようです。ヤオコーのユーザーは野菜が新鮮と感じる、実演が楽しいなど、素材や雰囲気の良さを気に入っている人も多く見られます。インストアベーカリーのパンのクオリティが上がっているのも最近のスーパーの特徴といえます。ここにイートインが設置されることで、これまでファストフード店の価値だった食空間が、スーパーやコンビニにも波及してきているわけです。コンビニにベーカリーやラーメン店が併設される日もそう遠くないかもしれません。いえ、むしろそうなってしまうと途端に魅力を感じなくなるのが人の常というものでしょうか。

シニアと子育てママの健康な食事とは

2014年は約100万人の出生数です。このうち約47.5万人が第一子出産、第二子出産が36.5万人、第三子以降が16.5万人となっています。例えば二人の子育てをする家庭では第一子妊娠から第二子が3歳になるまでの約8年間は、妊娠中の体重管理や子どもの食事にアレルゲンを避けるなど、食には特に気を使わなければなりません。ここに三世代の食シーンを考えるヒントがあります。カロリー、塩分、糖分、油分、アレルゲンなど、妊娠中に敬遠される素材は、団塊世代が敬遠する素材の多くと共通しています。つまり、実家の両親と娘親子が三世代で同じ料理を食べることについては、全く違和感がないということになります。

クックパッドの人気レシピの共通点

三世代連鎖消費の食としては鍋がある。ここにフィットする商品でsあれば三世代一緒の食卓でなくても商品が動く可能性は十分ある。

冬の三世代の食卓としては鍋がある。ここにフィットするものは実家から持って帰る食品の中に入る可能性も十分ある。

このように見てくると、最近クックパッドの人気レシピなどに多い、旬を取り入れた料理や、デパ地下風レシピ、家庭的な和惣菜や中華惣菜、調味料の使い方を工夫した健康調理法などの人気が高まる理由がわかってきます。特に殿堂入りレシピ(つくれぽが1000件以上)を見てみるとその傾向は顕著です。三世代を中心とした食シーンを観察するとなるほどと頷けるインサイトが多く見つかります。例えば、秋冬は平日におでんが伸び、週末に鍋が伸びることがわかっています。大量に作って数日かけて食べる味の染み込んだおでんは、平日手軽に食べられるファストメニューとして食べられる一方、鍋は週末家族で囲んで〆で食べきります。このシーンからおでんと鍋が似て非なる料理ということを認識し、鍋が家族のごちそうになっている=三世代の食卓での提案可能性が高いのは鍋と仮説立てることができます。一つ一つ紐解いて食卓の実態とTPOPP(Time,Place,Occasion,Product,Psychology)がどのように関係しているかを分析することは、生活者に響く提案をする上で欠かせない作業です。

(執筆:辻中 玲)

【ヤオコーユーザーに聞きました③】朝は「時間がない」ので「簡単なもの」

朝は皆忙しいもの。今回、生活日記調査にご協力いただいた皆さんも同様に朝はバタバタと出勤準備や子供の支度などで慌ただしい様子が、書かれている生活日記の内容からも見て取れます。

だいたい皆さん6時台には起床し、その後朝食の準備や片づけ、登園の準備、掃除、洗濯など、生活日記の朝の行動記録欄にすき間なく書かれています。8歳と0歳の女の子を子育て中のママの朝はこんな様子です。

ph04そんな忙しい中での朝食はどのようなものが食べられているのでしょうか。「ご飯派、パン派」といった、食べているモノから見るのではなく、生活日記に書かれた心理的な部分から探ってみたいと思います。

朝食シーンで多く見られる記述、それは、「時間がない」だから「簡単なもの」にしている(なってしまった)というものです。それぞれ頻度に違いはあるものの、全員がほぼ毎日生活日記に書いています。

では、「簡単なもの」とはいったいどんな食事なのでしょうか?

われわれの行なう生活日記調査では、生活日記への書き込みと同時に期間中に飲食したもの全ての写真を撮ってもらっています。ここでは、写真と上記の生活日記への記述を併せて見ていきたいと思います。

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写真と一緒に確認すると分かってくることですが、本当に買ってきた菓子パンだけという人もいれば、5皿8品が食卓に並んでいる人もいます。同じ「簡単なもの」であっても人によってこれだけの違いが見られるのです。このような違いは、その人の生活行動をまるごと見る生活日記調査でしか読み取れない部分でもあります。仮に定量調査を行なった場合、この人たちは「朝は時間がないので簡単なものですます」とひとくくりにされてしまうかもしれません。

では「簡単なもの」とは何なのか。インスタント?出来合いのもの?品数を少なくする?皆さんの生活日記を読んでいると、どれも当てはまっているようで微妙に違っているようです。そんななか、一人の人の生活日記の記述から新たな気づきのヒントを得ることができました。彼女は「朝は考えず簡単に済ませたい」と書いています。「考えず」というのがポイントです。それでは、彼女の1週間の朝食の写真を見てみましょう。

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こちらは一目瞭然です。いくつかのものが「定番化」しています。具体的には、食パン、ヨーグルト、ゆで卵、コーヒー(インスタント)の4品をほぼ毎日食べています。多くの場合、土・日・休日には朝食のパターンが崩れることが多いのですが、彼女は土日も定番を崩していませんでした。唯一定番が崩れた月曜日は、子供の授業参観の振替休日に家族でディズニーランドへ出かけた際の行きの車中での朝食です。

このように朝食が定番化していることと「考えず」「簡単に」ということが密接につながっていることは明白です。彼女にとって朝一番無駄な時間は、献立を考えたり迷ったりする時間なのではないでしょうか。また、新しい食材や商品を使うときに「何分ゆでればいいの?」「水は何cc加えるの」などと確認しながら手間取っている時間も無駄なのかもしれません。

では、この朝食の定番品はいつどこで手に入れているのでしょうか?生活日記によると彼女はこの週に食材の買い物を4回しています。内訳は、ヤオコー2回、スーパーバリュー1回、パルシステム1回です。それぞれの買い物で朝の定番品は買われているのか。まずは調査初日、木曜日のヤオコーでは、12点、2,039円の買い物をしています。この買い物では、食パンと卵を買っています。

続いて翌日の金曜日にはパルシステムで、赤魚一夜干し、あずきバー、キャベツ、にんじんを購入。朝の定番品は買っていません。

日曜日のスーパーバリューでの買い物はレシートの写真とともにその買い物に対するコメントも見てみましょう。

ph25 ph26「週末のまとめ買いはスーパーバリューで」とあります。たしかに生鮮三品はもちろん、お酒や子供のおやつまで幅広く買っていますが、朝の定番品の購入は卵だけでした。

その3日後の買い物はヤオコーです。ここでは、13点、785円の買い物のうち食パンのみ。

これらの内容から見ると、買い物全体における朝食の定番品のウェートは低いように思えます。逆に、買い物する際にも「考えず」に足りなくなったものだけ買えるので時間をかけずに買い物ができるとも言えます。

ここまで、生活日記調査をもとに仕事や子供を持つ女性たちが、忙しいながらもどのように「朝食」というシーンにのぞんでいるのかをみてきました。いくつかの気づきにより読み解けた部分もあるかと思いますが、残念ながら生活日記からだけでは分からなかったこともあります。それは彼女たちの「理想の朝食」です。「時間がある」とき、彼女たちはいったいどんな朝食を作るのか?「考えて」つくる「簡単なもの」ではない朝食とは?その「理想の朝食」と現実の朝食のギャップのなかに、もしかすると新たなニーズがあるのかもしれません。

(執筆:信夫 祐紀)