食のトレンド文庫「スーパーマーケットの食トレンド」むかしはいまの物語

【スーパーマーケットのマーケティング事始 第18回】
CVS新時代の業態としてのあり方と需要開発の方向性

CVS業態は3強時代に突入

日本にコンビニが登場して以来40年以上が経過、その業態規模はいまや11兆円を超え、存在感は増すばかりだ。人口規模からスーパーマーケットが出店できないローカルエリアにもコンビニが出店、その地域にとってはなくてはならないインフラとなっている。逆に最近では「この辺りはコンビニさえなくて」というのがローカル性を自虐する言葉になっているほどだ。

そのCVS業態に2016年から2017年にかけて大きな動きがあった。一つは16年3月にミスターコンビニといわれ、CVS業態の成長を主導した鈴木敏文氏がセブン&アイHDの代表取締役(CEO)を退任したこと。その影響はまだ顕著に表れているわけではないが、セブン-イレブンの方向性がいずれブレるのではないかと見る向きも多い。

二つ目の動きはファミリーマートが、サークルKサンクスと経営統合するためにユニーグループHDと合併、ユニー・ファミリーマートHDとなったこと。この結果、新生ファミリーマートの店舗数はセブン-イレブンに肉迫、17年2月期には全店舗売上高も3兆円を超えてきた。ファミリーマートに刺激され、もう一つの大手チェーンであるローソンは首都圏のスリーエフ、中国地方中心のポプラ、北関東のセーブオンなど中堅CVSチェーンを取り込むことによって上位2社を必死に追い上げようとしている。

しかし、CVS3強といっても実際には3チェーンの差は大きい。17年2月期の全店舗売上高では、トップのセブン-イレブンが4兆5,156億円、約1兆5,000億円差の3兆93億円でファミリーマートが2位、さらにファミマと約1兆円差の2兆275億円でローソンが続いている。この3社とも凄い売上ボリュームだが、マラソン競技でいえば、セブン-イレブンが40km付近まで先行しているのに対して、ファミリーマートは30km地点、ローソンは20km地点とほぼ逆転が不可能な差がついている。

しかも象徴的なのは、直近10年の全店舗売上高の推移。セブン-イレブンは、ここ数年の年間1,000店舗を超える純増店舗数効果から、過去10年で全店舗売上高が1兆9,412億円増加した。これは率にすると75.4%増となる。それに対してローソンは44.5%増えて2兆円台に乗せてきたが、増加額は6,247億円にとどまっている。ファミリーマートは数字の上では1兆8,965億円増えて2.7倍増の3兆円乗せとなったが、これはエーエム・ピーエム、ココストア、エブリワン、サークルKサンクスなどの吸収合併があったため。それらのチェーンの全店舗売上高も含めて計算すると実質的には35.9%増とセブン-イレブンの半分程度の伸びとなっている。

このように見てくると、現在はCVSの3強時代に入ったといわれるが、それはかなり便宜的なとらえ方であり、より正確に分析すればCVS業態は「1強プラス2時代」になっているというほうがより正確だ。

モデルフォーマットを作り上げたチェーンが残った

日本にCVS業態が本格的に登場して以来、40年強経過した。言い換えればネイティブのCVS世代も40代に入ってきたということである。この40年余の間にさまざまなコンビニチェーンが出現したが、ここへきて急速に集約されてきていることは冒頭でも触れた通りである。その要因はCVS業態は、食品主体の小売業であっても、SM業態と違ってシステム産業の側面が強いという事情がある。

例えばCVS業態が本格的に成長を始めた1980年代にセブン-イレブンが取り組んだ卸や総菜製造業者のベンダーへの転換にしても、店舗数がある程度まとまっているうえに、今後も出店増が期待できるからこそ既存食品卸・雑貨卸は、ベンダー型配送設備を整えるための先行投資を受け入れたのだ。まして当時はまだ現在ほどの需要がなかった総菜ベンダーにしてみれば、仮に出身母体が食品メーカーであれ、総菜製造業であれ、思い切った決断が必要だった。ただそのようなリスクを取ってCVS業態の成長に賭けたからこそ、わらべや日洋のように売上高が2,143億円(17年2月期)まで拡大、押しも押されもせぬデリの大企業になったところもある。

コンビニエンスストアまた税金や公共料金をはじめとする各種料金収納サービス、宅配便の扱いなどコンビニのサービスメニューは数多い。今となってはこのようなサービスは、あって当たり前になっているが、てきぱきとオペレーションするためにはPOSレジスターのソフト開発が必要で、後発の小規模チェーンほどその投資負担感が大きくなる。

つまりCVS業態は、先行するセブン-イレブンが、品揃えの基本からオペレーションするための情報システムまでを組み立て、そのような基本フォーマットをベースに二番手以下のチェーンが追随して成立した業態であり、先行チェーン=セブン-イレブンが圧倒的優位に立ってきたのだ。これは換言すれば、CVS業態を作り上げたセブン-イレブンに売上および利益が集中、二番手以下のチェーンはセブン-イレブンのおこぼれに与っていただけに過ぎないともいえる。実際、セブン-イレブンとファミリーマート、ローソンの平均日販には10万円以上の差がついているし、年間の経常利益も17年2月期でセブン-イレブンの2,512億円に対して、ファミリーマートは480億円、ローソンは564億円と格段の違いとなっている。つまりセブン-イレブンが作り上げたCVSフォーマットによって、セブン-イレブンが最大の利益を享受しているのだ。

ローカルコンビニモデルを作り上げたセコマ

セブン-イレブンとは全店舗売上高は、ヒトケタ違うが北海道のローカルコンビニチェーンとして成功したのがセコマ(旧セイコーマート)だ。北海道ではセブン-イレブンもセコマの後塵を拝しており、北海道人にとってはコンビニエンスストアといえば「セコマ」ということになる。

ところでセコマと並んで中堅コンビニとして独自の成長をめざしたチェーンに広島のポプラ、神奈川のスリーエフなどがあった。これらのチェーンに共通しているのは、出店地域を限定しローカルコンビニの方向性を取ったこと。また大手チェーンに出来ないサービス、例えば弁当では店舗で炊飯した温かいご飯をサーブしてストアロイヤルティを上げようとした。

セイコーマートその狙いは間違っていなかったが、結果は芳しいものではなかった。その一つローカルコンビニという方向性では、北海道という特殊商圏を主戦場としたセコマ以外は、店舗展開に焦れば焦るほどローカリティが薄れてしまった。広島から展開が始まったポプラは中国地方、四国、九州北部、近畿などでドミナント出店をめざした。ここまでなら西日本のリージョナルCVSチェーンということになるが、同社は高島屋のCVS業態「生活彩家」を買収して東京にも進出して以降、広く薄く各地に店舗を張り付ける「ヘソ」のないチェーンになってしまった。スリーエフの場合は、900万人に近い神奈川県の人口ポテンシャルを信じ切れず東京、埼玉、千葉へも出店地域を拡大した結果、力が分散し本来の地盤である神奈川県でも大手CVSチェーンとの競合に埋没することになった。

弁当に温かいご飯を詰めるといった独自サービスも、セコマは総菜をより強化したり、イートインコーナーを整備してその場で食べられるようにするなどサービス機能を充実することで、若年単身者のロイヤルティをアップすることに成功したが、ポプラとスリーエフは店舗のブラッシュアップができなかった。

しかもセコマは、いち早く一部生鮮食品なども扱うことで、店舗密度が低い北海道の特殊性に合わせ、ミニスーパー機能も併せ持ち、若い単身者からシニア層まで幅広い年代の顧客に支持されるコンビニに成長していったのだ。つまりセコマもまた独自のコンビニモデルを開発「セコマはさまざまなシーンで使える」という評価を得て成長を続けているのだ。最近はフードサービス機能を充実させ、それを別入口にした新フォーマットの実験に乗り出している。

CVS業態の今後の方向性および可能性

CVS業態の売上ボリュームは、経済産業省の「2016年度商業動態統計調査年報」によれば、サービスを含む全売上高は11兆4,456億円、商品販売額は10兆円8,246億円まで拡大してきた。これは日本の小売業販売額の約1割近くになる。ただCVS業態の存在感の高さは、この売上ボリュームだけではなく、日本人の暮らしのすみずみにまで浸透してきたことが大きい。食品・雑貨の購入に始まり、公共料金(税金)の払い込み、宅配便の申し込み、コンサートチケットの購入など利用範囲は多岐にわたっている。したがってもし閉店ということになれば、スーパーマーケットがなくなるよりも影響は大きいかもしれない。

また冒頭でも触れた通り、いまやコンビニは全国津々浦々にまで広がっており、コンビニがある地域とない地域では生活の利便性は大きく違う。そのため人口が少なくてCVSチェーンが出店をためらっている過疎地区では自治体が補助金を出して、コンビニの出店を誘致しているケースもある。

ではここまで大きくなったCVS業態の今後の方向性およびポテンシャルはあるのだろうか。店舗数は17年2月現在、3強以下13チェーン合計で5万8,089店舗まで増えてきており、これからはそれほど増える余地はなさそうだ。セブン-イレブンはまだ強気の出店姿勢を崩していないが、最近はリロケーション店舗も増えており、年間出店数は1,000店舗を割り込むようになっている。またファミリーマートと経営統合したサークルKサンクスの店舗は、かなりスクラップされる予定。それ以外にも日販額の大きいセブン-イレブンの出店が増えれば増えるほど、競合に負けたチェーンの店舗の閉店も予想されるため、コンビニの出店はいよいよゼロサムトレンドに入りつつある。

コンビニ店内しかし、コンビニにとって追い風になりそうな側面もある。それは高齢化がさらに進行し、住まいに近いコンビニの利用価値が高まりそうなこと。年金生活者の懐事情に配慮して値ごろ感の高い食事メニュー(商品)を開発できればシニア層の買物の場としての存在感は高まりそうだ。またセブン-イレブンがセイノーと組んで強化に乗り出した宅配も今後はかなり売上増が期待できそうだ。とくに地方では、簡単に出前を取ることもできないので、セブンミールの弁当をはじめとする同店の宅配は利用が増えそうだ。もちろん店舗からの宅配については、ファミリーマートやローソンなども取り組んでいるし、最近はローカルスーパーも電話やFAXで受注、宅配しておりシニア層をめぐる競合は激化している。

もう一つこれからコンビニで期待されるのは、有機食品やナチュラル食品を強化した健康志向の高い店舗フォーマットの開発だ。ローソンでは低糖質のブランパンが予想以上のヒットになるなど健康への関心は根強いものがあり、やりようによっては可能性が大きい。

この健康系コンビニの展開に関しては「ナチュラルローソン」が有名だ。2001年に事業展開が始まった同店は、16年後の17年2月期には141店舗まで増えている。しかし、ナチュラルローソンの展開は、やや慎重すぎるきらいがある。ローソンではターゲットである若い女性が多いオフィス街などから始まり、調剤薬局とのコラボ店舗や駅構内立地、病院内立地の店舗などを出店してきたが、16年間で141店舗というのはコンビニとしては、ゆっくり過ぎる。それだけローソンがナチュラルローソンフォーマットを大事にしており、需要が高そうな商圏に厳選して出店しているということかもしれない。

ただ健康系コンビニの展開では特定エリアにドミナント展開し、そのエリアで健康ニーズを活性化させて、健康系コンビニの定着を図るといった方法もあったはず。ローソンとしては、ここまでナチュラルイメージを作り上げてきただけに、東京の城南地区などを中心に1,000店舗規模のナチュラルローソンのドミナント化を実現、上位2チェーンに一矢を報いたいものだ。

執筆:山口 拓二

第19回<予定>「デザートからスイーツに変化するスーパーマーケットのおやつ売場」

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    【スーパーマーケットのマーケティング事始 第17回】
    インストアオペレーションとセンターオペレーション

    バブル期以上の人手不足が続く

    スーパーマーケット最近スーパーマーケットをはじめとする流通業を取材していて、異口同音に聞こえてくるのが「募集をかけても人が集まらなくて」という嘆き。東京都内では、夕方のレジ担当のパートタイマーの人件費は時給1,000円をとっくに超えているが、それでも人は集まらない。まして汚れ仕事のイメージが強い鮮魚や精肉の担当者募集では30代、40代の若い主婦が集まらず、パートの定年を70歳まで引き上げて数合わせしている店舗も多い。

    それもそのはずで、リーマンショック後の2009年度には0.45まで下がった有効求人倍率が、2017年3月には1.49と3倍以上に増えている。これはおよそ30年前のバブル期を超える水準だ。つまり17年3月を例にとれば、求職者100人に対して求人が149人あるわけで、これでは求人を出しても応募者がない会社があっても不思議ではない。なかには売り手市場ということはわかっていても、状況変化を認識せず、従来の時給のまま求人を出して採用できないと嘆いている企業もあるらしい。このような間違いで誰か応募してくれればめっけもの的求人を「おちょくり求人」という。完全失業率も2017年2月には3%を割り込み2.8%になっている。数字的にはこれでも1,000人のうち28人が失業していることになるが、失業率がゼロになることはないので、2.8%は計算上の完全雇用に限りなく近づいているという見方もできる。

    このように企業の人材募集が厳しくなっている要因は15~64歳の生産人口の減少と景気の回復が同時に進行しているため。景気が良くなっているといわれても「本当?」と感じる人が多いかもしれないが、マクロ経済的には景気好転がなければ、今のような雇用状況の改善は起こらないといわれている。

    商品力重視派と効率重視派という二つの大きな流れ

    しかし、このまま人手不足が続き、段階的に社員およびパートタイマーの人件費(時間給)が上がれば、そうでなくても利益率が低い日本のスーパーマーケットは、厳しい状況に直面せざるを得なくなる。その上ランニングコストの主要部分を占めるオペレーション・システムでも、最近、日本では商品力重視のチェーンが効率重視のチェーンを抑えて主流になってきており、このままいけば売上は上がっても利益確保はますます難しくなることは間違いない。

    そもそも日本のスーパーマーケットでは、こと店舗オペレーションに関しては、生鮮3品や惣菜の商品づくりを店舗のバックヤードで行うインストアオペレーションのチェーンと、外部のプロセスセンターやカミサリーを活用したセンターオペレーションのチェーンという二つの大きな流れがあった。前者の代表例が関西スーパーマーケットやサミットなどオール日本スーパーマーケット協会(AJS)に加盟するチェーンだ。後者をリードしてきたのがSMチェーンのいなげややダイエー、ジャスコ(現イオンリテール)などのGMSチェーンだ。この二つの方式は、前者が商品力重視派、後者が効率重視派と言い換えることもできる。

    精肉加工作業場効率だけでいえば、出店に必要な敷地面積を見てもその差は歴然としている。インストアでの商品づくりを行うためには生鮮3品や惣菜の作業場がバックヤードに必要になるため、仮に売場面積が450坪であっても作業場のために後方に250坪前後のスペースが必要で、トータルで建坪は800坪程度なければならない。それに対してプロセスセンターなどから配送するセンターオペレーションのスーパーマーケットでは、売場面積450坪と荷受け所の計500坪もあれば店舗をつくれる。つまりセンターオペレーションのスーパーのほうが、狭い敷地面積でも出店できるため有利なのだ。

    ところが1990年代後半までは、拮抗していたインストアオペレーション派とセンターオペレーション派の力関係は、2000年代に入って大きく変化することになった。経済合理性からいえば、センターオペレーションのSMチェーンのほうが有利なのだが、現実にはインストアオペレーションのSMチェーンのほうが圧倒的な主流派となった。その象徴的な事例が、創業以来一貫してセンターオペレーションでのSM運営を追求してきたいなげやのインストアオペレーションへの転換だ。最近のいなげやの店舗は、商品力がまず前面に立ち、ヤオコーや阪急オアシスと同様の提案力のある売場になっている。

    日本のスーパーマーケットはハイブリッドオペレーションに転換

    日本のスーパーマーケットが商品力重視のインストアオペレーションへ転したのは、当然理由があってのこと。その時期や要因は、本当は詳しく分析しなければならないが、今回はあえてざっくりした指摘にとどめたい。ではその理由は何か。一言でいえばコンビニが弁当や惣菜、さらに生鮮食品や日配で力をつけたり、ディスカウントSMが価格価値の提案で業態として成長し、業態間の競争が激化する中で、スーパーマーケットはその存在意義を生鮮3品や惣菜、ベーカリーなどの品質や鮮度さらには提案力アップに求めざるを得なかったのだ。

    スーパーの揚げ物売り場その際、センターオペレーションは売場提案に柔軟性がなく、インストアオペレーション主体の方向性を取らざるを得なかったという事情があった。例えばセンターオペレーションでは、翌日の販売量を予測して前日に発注しておく必要がある。それでも翌日の天候や行催事を取り込んだ需要予測システムを導入しておけば、発注と売上はそれほどずれることはない。しかし、どのような突発事態が発生するかわからないのが「商売」だ。もし通常どうりの発注をした日に、突然午後一番に精肉がバカ売れすれば、午後の配送量だけでは夕方の顧客の買物に対応できず、大きなチャンスロスが生じる可能性がある。

    また惣菜になるとさらにスピーディな対応が求められる。インストアオペレーションでも、揚げ物は品目ごとにおおよそ揚げる時間を設定しておき、そのスケジュールにしたがって作業を進める。それでも急に揚げ物のうち唐揚げが売り切れてしまうこともある。そういう事態になるとデリバリーに頼ったオペレーションでは、唐揚げが品切れになることもある。これでは当てにしてきた顧客にとっては間に合わない不便な店舗ということになる。ただインストアに厨房があれば、売れ行きを見て、適宜予定を組み換え品切れを防ぐことができる。つまり惣菜では、インストアオペレーションでなければ、顧客も店舗もともにストレスが多くなるのだ。

    執筆:山口 拓二

    第18回<予定>「2018年以降のCVS新時代の需要開発」

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      食のトレンド文庫「スーパーマーケットの食トレンド」むかしはいまの物語

      【スーパーマーケットのマーケティング事始 第16回】
      買物が不便なフードデザート(買物困難地域)の増加とミニスーパーのポテンシャル

      700万人まで増えてきた日本の買物難民

      都市部に住んでいるとあまり実感がないが、人口が減少を続ける地方を中心に「フードデザート」が大きな社会問題になりつつある。「フードデザート」とは直訳すれば「食の砂漠」になる。いいかえれば、買物に不便を感じている買物難民が増えており、2016年の内閣府の推計によると、約700万人に達しているとされている。経済産業省の定義によれば買物難民とは「生鮮食品店までの距離が500m以上、かつ自動車を持たない人」のことである。

      買物難民が増えているでは具体的にはどのような形で買物難民が発生するのだろうか。まず地方で見てみよう。いまや日本全体が人口減少基調になっているが、地方では人口減少のスピードは都市部の比ではない。とくに中山間地と言われる町から遠い地域では過疎化が著しく、かつて人口が1,000人前後だった集落が、直近では300人を割り込むまでに減少、なおかつ65歳以上の高齢者が50%を超えているといったケースがざらにある。その結果かつては肉、魚、野菜から加工食品、雑貨までなんでも揃うよろず屋の経営が成り立たなくなり廃業、自分の足(自動車)を持たない高齢者は買物する店がない状態となる。

      そのため、このような買物難民の増加は、栄養価の高い生鮮食品を十分に摂取できない高齢者を生み、健康上の問題も発生させている。なかには都会へ出た子どもたちが相談して、一人残った母親に生協の個配を注文、食品は配送されているケースもあるが、母親のほうは毎週届く肉や魚をもったいないと感じ、冷蔵庫の奥にしまい込み、娘がたまに帰省して冷蔵庫をチェックしたら腐った肉で冷蔵庫が満杯だったという笑えない話もある。

      都市部でも買物困難地域が増える

      都市部でも生鮮食品の買物の場がなくなるケースが出てきている。その最たる例が大型団地の商業施設だ。高度成長期に次々開発された大都市郊外の団地は、当時地方から東京など大都市に流入してきて結婚・出産とライフステージが上がっている人にとっては憧れの的だった。部屋も広く風呂もついているうえに、何よりも洋風化しつつある食生活に合わせたキッチンが新しい暮らしをイメージさせてくれた。大型団地になると商業ゾーンが設けられており、スーパーマーケットをはじめ、生鮮食品の専門店、薬局、郵便局さらには何軒かの外食店舗も出店、外へ出かけなくても団地内で生活が完結するようになっていた。

      団地ブームから50年以上が経過したしかし、時間が進むとともに大都市郊外の開発が進み団地の外に大型店が出店、買物する場は広がりを見せる。モータリゼーションの波に乗ってクルマを手に入れた家庭では、週末は団地外での買物が増え、団地のスーパーや専門店は少しずつ客足が減少していく。そして団地ブームから50年以上が経過したいま、民間の戸建てもしくはマンションなど持ち家に移った人も多く、さらに居住者の高齢化が進行して消費力がダウン。その結果、団地内のスーパーや専門店は経営が悪化して閉店するところが続出、移動手段を持たない高齢者は買物する店舗がない事態に直面する。

      このような買物困難地域は、郊外の団地だけにとどまらず、東京23区内のようなディープ東京にも及んでいる。もともと地価の高い都区部ではSMチェーンの出店は難しく肉、魚、青果の専門店やそれらから進化した単独スーパーが居住者の食生活を支えていた。ところが最近では、都区部でも専門店の廃業が増え、スーパーマーケット化した総合食料品店もコンビニなどとの競合に敗れて閉店、高齢者が生鮮食品を購入する場が少なくなっている。

      そのためここへきて都区部で目を引くのが、シルバー用のショッピングカートを引いた高齢女性の姿だ。健康のため歩いて買物に行こうという意識もあるのだろうが、目標のスーパーまで500m以上になれば、足元のおぼつかない高齢者にはかなりの負担になっているはずだ。

      このように地域の人口減少や人口構成が変わることによって、経営が成り立たなくなっている店舗が確実に増えている。地方でいえば生業的に経営していたパパママ店舗が利益が出なくなって廃業するのは当然の流れだし、都市部のSMチェーンでも出店している商圏の構造が変わり利益が出なくなれば、その店舗をスクラップするのは仕方ないことだ。

      流通業の代表的な買物難民対策

      しかし、フードデザートの増加=買物難民のボリュームアップをチャンスと見て攻めに転じる業態もある。例えばセブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンなどコンビニチェーンでは、生鮮食品を扱う店舗が少ない立地では、お客さまの利便性に配慮して野菜を中心に精肉、海産物の塩干などを扱うコンビニの出店を続けている。本部では農業生産法人を設立したり、生鮮ベンダーの開発・強化を図っている。またセブン-イレブンではセブンミールをつくって、高齢者や出産直後の若い母親など買物が困難な人を対象に、弁当や店舗に品揃えしている商品の宅配を事業化している。セブンミールでは、2017年春にセイノーと業務提携し、配送業務のオーナー負担の軽減に乗り出した。

      フード&ドラッグ業態の店舗が増加スーパーマーケットより店舗の出店密度が濃いDgSチェーンでも、和洋の日配だけではなく生鮮食品や総菜、弁当などを扱うフード&ドラッグ業態の店舗が増加、近くのドラッグストアで食品までを買物できる態勢を整えつつある。

      それに対してスーパーマーケット各社が展開を強化しているのがネットスーパーだ。しかし、ネットスーパーの扱い高をきちんと発表しているのはイトーヨーカ堂くらいであり、どのチェーンもあまり実績が上がっているようには見えない。まして高齢者の場合、パソコンやスマートフォンを扱いなれない人が多く、便利な仕組みはあってもその入り口でつまずくことも多い。なかにはシニアにも操作が簡単なFAXを使えるようにしているチェーンもあるが、店舗の売上の一部を補完するのが精一杯だ。

      それよりも現状で買物困難地域の高齢者に支持されているのが、軽トラックを改造して食品を中心に約1200品目の商品を積み込んだ「移動スーパー」だ。この移動スーパーには二つの流れがある。一つは全国の生協がそれぞれの事業エリアで展開しているもの。フードデザート対策という社会性が高く過疎地の多い北海道のコープさっぽろでは100台規模で2tトラックを改造した移動販売車(生協での呼称)を導入、個配などでは対応しきれないローカルエリアの組合員の食需要に対応している。

      もう一つは徳島の株式会社とくし丸が始めた移動スーパーだ。こちらのほうは全国のSM企業と組み展開しており、2016年末で158台の移動スーパーが稼働している。同社は2016年に有機野菜ネット販売のオイシックスの子会社となったが、それを機に信用力が増し、とくし丸の仕組みを導入するチェーンは大規模チェーンまで拡大してきた。とくし丸の移動スーパーの年間売上は、1台当たり年間3,000万円程度と微々たるものだが、最終利益率は6.9%と高い。これはSMチェーンの純利益率1~2%と比較すると非常に高い。とくし丸を利用する高齢者は商品の価格ではなく、移動スーパーが巡回してくれることを評価しているのだ。

      「まいばすけっと」は大都市部で多店舗化に成功

      大都市の買物困難地域に狙いを定めて最も成果を上げているのがイオングループの「まいばすけっと」の事例だ。2005年12月に横浜市保土ヶ谷区に1号店を出店した「まいばすけっと」は、以後横浜市、川崎市さらには東京23区の城南・城西地区を中心に出店を続け、12年後の2017年2月期には637店舗まで増やしている。同店は売場面積30~60坪の都市型ミニスーパーで、狭いながら生鮮3品から日配、総菜、加工食品、雑貨などをフルライン展開、コンビニとは明らかに店舗の性格が違う。

      都市型小型スーパー東京都区内での都市型小型スーパーの展開では、その後、紆余曲折の末に同じグループとなったユナイテッド・スーパーマーケットHDの基幹チェーン、マルエツの「マルエツプチ」のほうが早かったが、出店スピードで「マルエツプチ」を圧倒した「まいばすけっと」が大差をつけた。売上高でも17年2月期で1,200億円に迫っている。そういう意味でいえば、食品スーパーが手薄な大都市中心部に目をつけ、集中出店を図った「まいばすけっと」は、それほど話題になることはないが、イオンにとっては久々のクリーンヒットとなった。

      しかし、「まいばすけっと」は利益が十分上がっているとは言い難い。とくに最近はコンビニチェーンとの出店競争が激化、都心の新築オフィスビルやマンションなどに入居せざるを得なくなっており、出店コストがかさむようになっている。今後「まいばすけっと」が首都圏でコンビニ並みに出店し、ミニスーパーチェーンとして成長するためには、確実に利益が出せる仕組みづくりが不可欠だ。

      ディープ・ディスカウントSMの可能性

      フードデザートのうち、地方での事業展開は、人口が大きく減少していることもあり、かなり難しい。ネット通販を誰もが使いこなせるようになるまでは、移動スーパーが最も効率が高いかもしれない。ただ、人口の多い都市部では、現状の都市型小型スーパー以外にもポテンシャルが期待できる業態がある。それはドイツのアルディに代表されるボックスストアだ。

      ドイツのアルディは売場面積300~500坪に1,400品目(95%はPB)ほどの商品を、標準的なスーパーマーケットより40~50%、ウォルマート、コストコと比べても15~25%安く販売している。これを30~50坪にスケールダウンし、生鮮食品から日配、加工食品、雑貨などを合わせて1,000品目ほど、標準スーパーの半額の価格で展開すれば、特定層の消費者からの支持は集まるのではないか。

      ドイツのアルディというのは2016年9月現在27.3%となっている65歳以上の高齢者の比率は、今後ますますアップしていき生活が厳しい年金生活者が増えていく。しかも年金受給額は漸減する可能性が大きく、年金プラスわずかな就労所得で生活しなければならない単身高齢者、高齢夫婦の生活は厳しさが増しそうだ。したがって、たとえPBが主体であっても、標準スーパーより40~50%安く購入できるディープ・ディスカウントSMは、国民年金中心の高齢者や非正規雇用の勤労者には魅力的な店舗となる。

      日本にこれまでボックスストアがなかったわけではない。ダイエー全盛期の1979年11月に、同社が1号店を埼玉県大宮市宮原町にオープンした「ビッグ・エー」が最も早い事例になる。関西では「サンディ」が多店舗展開している。またイオンも2008年にPBを主体にした「アコレ」を開発、2017年2月期には132店舗まで増やしている。ただ「ビッグ・エー」を例にすると、当初はダンボール陳列を多用したローコストオペレーションの店舗だったが、価格的にはディスカウントSMと同程度だったため、売上が思ったように伸びず、やがて陳列方法も標準スーパーに近づき、ボックスストアとしての特性が薄れていった。

      要は売り方もあまり好きではない、販売している商品も生鮮食品は少ないし、加工食品はPBがほとんどだけれど、それらをねじ伏せるだけの価格パワーが日本のボックスストアにはなかったのであり、商品を安く売るための仕組みの開発ができれば、ボックスストアはこれまで以上に成長性余力の高い業態になる可能性を秘めている。

      執筆:山口 拓二

      第17回<予定>「インストアオペレーションとセンターオペレーション」

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