食のトレンド文庫「スーパーマーケットの食トレンド」むかしはいまの物語

【スーパーマーケットのマーケティング事始 第17回】
インストアオペレーションとセンターオペレーション

バブル期以上の人手不足が続く

スーパーマーケット最近スーパーマーケットをはじめとする流通業を取材していて、異口同音に聞こえてくるのが「募集をかけても人が集まらなくて」という嘆き。東京都内では、夕方のレジ担当のパートタイマーの人件費は時給1,000円をとっくに超えているが、それでも人は集まらない。まして汚れ仕事のイメージが強い鮮魚や精肉の担当者募集では30代、40代の若い主婦が集まらず、パートの定年を70歳まで引き上げて数合わせしている店舗も多い。

それもそのはずで、リーマンショック後の2009年度には0.45まで下がった有効求人倍率が、2017年3月には1.49と3倍以上に増えている。これはおよそ30年前のバブル期を超える水準だ。つまり17年3月を例にとれば、求職者100人に対して求人が149人あるわけで、これでは求人を出しても応募者がない会社があっても不思議ではない。なかには売り手市場ということはわかっていても、状況変化を認識せず、従来の時給のまま求人を出して採用できないと嘆いている企業もあるらしい。このような間違いで誰か応募してくれればめっけもの的求人を「おちょくり求人」という。完全失業率も2017年2月には3%を割り込み2.8%になっている。数字的にはこれでも1,000人のうち28人が失業していることになるが、失業率がゼロになることはないので、2.8%は計算上の完全雇用に限りなく近づいているという見方もできる。

このように企業の人材募集が厳しくなっている要因は15~64歳の生産人口の減少と景気の回復が同時に進行しているため。景気が良くなっているといわれても「本当?」と感じる人が多いかもしれないが、マクロ経済的には景気好転がなければ、今のような雇用状況の改善は起こらないといわれている。

商品力重視派と効率重視派という二つの大きな流れ

しかし、このまま人手不足が続き、段階的に社員およびパートタイマーの人件費(時間給)が上がれば、そうでなくても利益率が低い日本のスーパーマーケットは、厳しい状況に直面せざるを得なくなる。その上ランニングコストの主要部分を占めるオペレーション・システムでも、最近、日本では商品力重視のチェーンが効率重視のチェーンを抑えて主流になってきており、このままいけば売上は上がっても利益確保はますます難しくなることは間違いない。

そもそも日本のスーパーマーケットでは、こと店舗オペレーションに関しては、生鮮3品や惣菜の商品づくりを店舗のバックヤードで行うインストアオペレーションのチェーンと、外部のプロセスセンターやカミサリーを活用したセンターオペレーションのチェーンという二つの大きな流れがあった。前者の代表例が関西スーパーマーケットやサミットなどオール日本スーパーマーケット協会(AJS)に加盟するチェーンだ。後者をリードしてきたのがSMチェーンのいなげややダイエー、ジャスコ(現イオンリテール)などのGMSチェーンだ。この二つの方式は、前者が商品力重視派、後者が効率重視派と言い換えることもできる。

精肉加工作業場効率だけでいえば、出店に必要な敷地面積を見てもその差は歴然としている。インストアでの商品づくりを行うためには生鮮3品や惣菜の作業場がバックヤードに必要になるため、仮に売場面積が450坪であっても作業場のために後方に250坪前後のスペースが必要で、トータルで建坪は800坪程度なければならない。それに対してプロセスセンターなどから配送するセンターオペレーションのスーパーマーケットでは、売場面積450坪と荷受け所の計500坪もあれば店舗をつくれる。つまりセンターオペレーションのスーパーのほうが、狭い敷地面積でも出店できるため有利なのだ。

ところが1990年代後半までは、拮抗していたインストアオペレーション派とセンターオペレーション派の力関係は、2000年代に入って大きく変化することになった。経済合理性からいえば、センターオペレーションのSMチェーンのほうが有利なのだが、現実にはインストアオペレーションのSMチェーンのほうが圧倒的な主流派となった。その象徴的な事例が、創業以来一貫してセンターオペレーションでのSM運営を追求してきたいなげやのインストアオペレーションへの転換だ。最近のいなげやの店舗は、商品力がまず前面に立ち、ヤオコーや阪急オアシスと同様の提案力のある売場になっている。

日本のスーパーマーケットはハイブリッドオペレーションに転換

日本のスーパーマーケットが商品力重視のインストアオペレーションへ転したのは、当然理由があってのこと。その時期や要因は、本当は詳しく分析しなければならないが、今回はあえてざっくりした指摘にとどめたい。ではその理由は何か。一言でいえばコンビニが弁当や惣菜、さらに生鮮食品や日配で力をつけたり、ディスカウントSMが価格価値の提案で業態として成長し、業態間の競争が激化する中で、スーパーマーケットはその存在意義を生鮮3品や惣菜、ベーカリーなどの品質や鮮度さらには提案力アップに求めざるを得なかったのだ。

スーパーの揚げ物売り場その際、センターオペレーションは売場提案に柔軟性がなく、インストアオペレーション主体の方向性を取らざるを得なかったという事情があった。例えばセンターオペレーションでは、翌日の販売量を予測して前日に発注しておく必要がある。それでも翌日の天候や行催事を取り込んだ需要予測システムを導入しておけば、発注と売上はそれほどずれることはない。しかし、どのような突発事態が発生するかわからないのが「商売」だ。もし通常どうりの発注をした日に、突然午後一番に精肉がバカ売れすれば、午後の配送量だけでは夕方の顧客の買物に対応できず、大きなチャンスロスが生じる可能性がある。

また惣菜になるとさらにスピーディな対応が求められる。インストアオペレーションでも、揚げ物は品目ごとにおおよそ揚げる時間を設定しておき、そのスケジュールにしたがって作業を進める。それでも急に揚げ物のうち唐揚げが売り切れてしまうこともある。そういう事態になるとデリバリーに頼ったオペレーションでは、唐揚げが品切れになることもある。これでは当てにしてきた顧客にとっては間に合わない不便な店舗ということになる。ただインストアに厨房があれば、売れ行きを見て、適宜予定を組み換え品切れを防ぐことができる。つまり惣菜では、インストアオペレーションでなければ、顧客も店舗もともにストレスが多くなるのだ。

執筆:山口 拓二

第18回<予定>「2018年以降のCVS新時代の需要開発」

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