【食のトレンドレポート Vol.5】より抄録 | 「朝ごはん」に渦巻く 生活者の欲求を捉えているか?!

「朝ごはん」に渦巻く生活者の欲求を捉えているか?!

  • トーストの「飽きさせない」一工夫!
  • 「おにぎり」も魔法の杖!
  • 「朝ごはん」は通年〈気になる〉
  • 朝の「微変化」は生活全体の価値

トーストの「飽きさせない」一工夫!

「目先を変えて飽きさせない」、これは幼児を持ったママの大切なテーマである。「飼育員さん」前期にはとても重要なことである。
<略>
繰り返されていく平日の朝食、その中でトーストに顕在化された「飽きさせない」ための「微変化」の「一工夫」は、「飼育員さん」前期には顕著なのは当然だが、実はこれはシニア層の「朝食」にも、同様のことが決定的に重要なテーマになっており、それが実態であるといっておく。シニア層は保守的で、新しいことや変化を求めないといったことはとんだ先入観であり曲解である。やがてレポートするので楽しみにしておいてください。

「おにぎり」も魔法の杖!

おにぎり、おにぎらず、卵焼き

「おにぎり群」に求められるのもまた、「微変化」の「一工夫」である。

この平日の朝の「飽きさせない」ための「一工夫」は、トーストだけではなく「おにぎり群」というキーワードにも全く同一の傾向がみられる。「おにぎり」「おにぎらず」というキーワードが〈気になる〉スイッチを押すのも「平日」パターンなのである。
<略>
つまり、トースト、「おにぎり群」、「朝ごはん・お弁当群」の中のお弁当と卵焼きは、「平日の朝」という共通価値を持っているのだ。朝食において卵というアイテムは不動の中心打者である。もちろんお弁当の中にも必ずといっていいほど入るのが卵焼きだ。

毎日繰り返されるお弁当にとって「目先を変えて飽きさせない」ことは必須の条件である。加えて、お弁当に詰めこまれていくアイテムは朝食でも食べられるし、子供のお弁当だけではなくママのお昼ごはんやお弁当にもなっていく。だから、「微変化」の「一工夫」は極めて重要なのである。

「朝ごはん」は通年〈気になる〉

お弁当、卵焼きと同じ群に入れておいた「朝ごはん」、「朝食」というキーワードは、これまで述べてきた他のキーワードとは全く異なり、ほぼ「休日」と「平日」との波動の差異がなく、一週間を通して〈気になる〉スイッチを押し続けているのだ。もっといえば年間を通じて〈気になる〉のだ。

「朝ごはん」と「朝食」は、たまたま2種類のキーワードに分類されているだけで生活の中では同じ意味だと理解できる。

先ほども述べたが「朝ごはん」系は週間の波動もなく、一年間の波動もない。そして決定的なことは、一年間を通じて常にベスト10の中に入っていることである。これはたった1つ「朝ごはん」だけだ。
<略>

朝の「微変化」は生活全体の価値

子どもたちの朝食シーン

「朝」は改めて着目し直すべき“不易”のキーワードである。 変化が起こりにくい朝食には「微変化」の欲求が渦巻いている。

<略>
必ず繰り返される「朝ごはん」、いわゆるTPOの変化が最も起こりにくい生活シーンにこそ、「微変化」の欲求が渦巻いているということになる。そして、その朝というシーンの中に「平日」と「休日」という、やはり〈きっかけ〉スイッチの入り方の違いによって、〈気になる〉スイッチが異なるという特徴を持っている。

これは食のトレンドから覗きみたことではあるが、生活全体の中における「朝」というTPOは、あらためて着目し直すべき生活価値のありかだといえそうだ。

執筆:辻中 俊樹(マーケティングプロデューサー)


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【シニアの食のトレンド】シニアは食に何を求めているか

2015年夏に高齢世代(60〜80代)の男女約60人を対象に生活日記調査が行われました。その結果から、シニア層の食のトレンドについて掘り下げていきます。

シニアと「ソルティライチ」

688588284d15d00b839ed35754de2a71_s今回は真夏の調査でしたが、外出機会が減る高齢者のイメージに反して、とにかく猛暑の真っ際中でありながら、外出機会が非常に多いこと、加えて、一般的に食欲が落ちる猛暑にもかかわらず、ほとんど三食が欠食なく食べられていることが見えてきました。
生活全体を分析をしていくと、高齢者層にとって「食」は間違いなく元気の源になっていることが浮き彫りになりました。

さらに、水分補給には特に気をつけており、外出時には家から持参したお茶や、ペットボトルを携帯しています。また、ナトリウム補給系の飲料も多く出現します。「水分と一緒にナトリウム補給をして、低ナトリウム症にならないように気をつけましょう」という情報が届き、それらの新しい情報を取り入れています。出現した具体的な商品としては「ソルティライチ」が圧倒的で、1日に1本消費しているケースもありました。高齢者といえば、保守的で新しいもの(商品)にチャレンジしないと考えてしまいがちですが、全くそうではなく、むしろチャレンジブルな高齢者像がいくつも見えてきたのです。

シニアは朝食に何を食べているか

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象徴的だった78歳のおばあちゃんのある日の朝食

シニアの朝食の実態はどのようになっているでしょうか。はっきりとした特徴としてみられたのが、どんなに猛暑であろうと朝食を欠食することはなく、しっかりと食べられていて、さらにその大半がいわゆる「パン食」になっているということです。
ここでいう「パン食」とは洋食ということではなく、アイテムとして「パン」が選択されているということを意味しています。これは、どういうことでしょうか。パンにハムエッグやサラダが必ず組み合わされるわけではなく、例えば残り物のきんぴらや煮物がパンと一緒に登場するようなケースも多く見られました。
一方で「ごはん食」を見ると、確かに味噌汁が組み合されることが多くはなるものの、アイテムとして「ごはん」が選択されたとしても、ハムエッグやサラダが組み合わされることも多々見られました。
割合を見てみると「パン食」は朝食全体の約3/4を占めています。1週間の7食がずっと『パン食』の人が多いのですが、週に2回くらい『ごはん食』が混合したりすることもあります。

ここから、シニアの朝食では、「パン食=洋食」「ごはん食=和食」という垣根が取り払われ、非常に自由な組み立てになっているということがいえます。
「高齢になると朝はごはんを中心にした和食っぽい食事をする…」目隠しをしたままではそんなシーンを想像してしまいそうですが、それは古い思い込みが生み出した誤解といえます。

シニアの「朝食はパン食」は何故なのか

さて、さまざまな定量調査のデータを見ていても、この傾向はある程度の確証があるのも事実で、まずはシニアの「朝食はパン食」という実態については、認めておかなければなりません。

その上で、シニアが「朝食にパン食」を選択するかということについて考えて深堀りしていきます。「パンのほうが手間もかからないし、準備も簡単」、「後片づけも手間取らないし、お皿洗いもしなくてすむ」、「他に手間のかかるおかずなどの準備もいらない」、このようないわゆる”簡便””時短”が「朝食にパン食」を選択する理由と背景になっているのでしょうか。生活全体を可視化することによって決してこれらが、価値の本質ではないということが明らかになってきました。

もちろん「パン食」には”簡便””時短”の要素があるため、限られた選択肢しかない定量調査では必然的にここに集約されてしまいます。ここに大きな誤解と落とし穴があります。

「飼育員さん」というユーザー層

ここでシニアの朝食に対する価値観と対照的なユーザー層を見ておく必要があります。「飼育員さん」とは決して動物園の話ではありません。夫を出勤させ、子どもたちの朝食を準備して食べさせ、お弁当を作り、仕度をして自分も出勤する、いわゆる「ワーキングマザー」の食について私たちはこのように捉えています。ライオンやシマウマや羊の群れをなだめすかして飼育する、その典型が日常の食事シーンによく現れています。とにかく短時間に次々とやってくる育ち盛りの子供達に野菜や果物で栄養を与えなければならなりません。これは義務であり、ワーキングマザーにとっての朝食はつまり”えさ”であることから離れられません。このシーンでパンの持つベネフィットはなんでしょうか。やはり”時短”であることに違いないようです。

一方、シニアの朝食シーンを見てみると、時間の概念が天と地ほど違っていることに気づきます。シニアたちは彩りや楽しさを感じるから、旬の野菜や果物を食べるのであって、これは決して“えさ”ではないということが明らかになってきます。

シニアの朝食に”時短”は必要ない

まず、今回の日記調査で明確にわかったことの一つが、シニア層の朝食は決して忙しくはないということ。時間に追われて朝食を摂らなければならない理由がないのです。もちろん早起きの傾向はありますが、どうやら8時頃を中心に前後1時間くらいの幅のところが朝食タイム、30分から1時間は時間をかけているようです。テレビをみたり音楽を聴いたりしながらのゆったりとした時間を過ごしています。これは15分で朝食を準備しなければならないこともある、子育て世代(ワーキングマザー)とは全く性質の異なる朝食時間を過ごしていることを意味します。果たしてここに”時短”である必要性が存在するでしょうか。

もう一つは、パン食とはいいながら、そこに登場してくるアイテムが多彩であることです。まずコーヒーをドリップしてゆっくり飲みながらヨーグルトを食べます。それからおもむろに卵料理を作ってトーストを食べます。必ず出現してくるのが季節の野菜で、ミニサラダにしてみたり、温野菜にして食べたりすることもあります。そして当然季節のフルーツが出現してきます。今回の調査は8月上旬だったこともあり、旬のすいか、そして桃が必ず登場しました。それから食べ残していたバームクーヘンを少しつまんでもう一杯コーヒーを飲みます。果たしてここに”簡便”である必要性が存在するでしょうか。

シニアの食は「食べたいものを食べる」

食べたいものを食べる、これが“えさ”でない食事シーンをつくりあげます。私たちはこの食べたいものを食べることの実現を、“食べたい力”と呼んでいます。シニアにはこの“食べたい力”が備わっています。ここには簡便も時短も存在しません。ただ、過剰に手をかけたりしないだけなのです。

シニアの「朝食はパン食」の実態の裏側には、季節やその日の彩りを感じることが朝食の目的になっているという、シニアの生活価値を捉える大きなヒントがあるのです。

【シニアとポストマタニティ】三世代消費シーンの食のトレンド

三世代消費は無視できないボリューム層

メーカー各社が本格的に取り入れ、一層その重要性が高まっている「子ども・両親・祖父母」の密接な生活シーンにフォーカスした「三世代マーケティング」。特に三世代が近接で別居しているケースは大きなインパクトを持っています。今回は三世代シーンの食のトレンドについて整理します。

…団塊世代の流入エリアと、その子どもたちの世代が流入するエリアは、都心部を除けばほぼ重なることになる。つまり、親子の世代が同じエリアに流入しているのだ。
『辻中俊樹・団塊が電車を降りる日』(東急エージェンシー、2005年、130頁)より

三世代近接別居がボリュームを持っていることは人口動態が関係していますが、子育て中の夫婦が(特に妻方の)実家の近くに住み、小さな子供を連れて実家に行って過ごすのがこのシーンの典型です。この三世代の接点が週に1回程度、年間50回以上あるといわれています。この場合、実家の両親が娘夫婦の生活をサポートする側面と、孫と過ごす時間的価値による相互の関係が成り立っています。妻方の実家になると、妻にとっても気を使わず日頃の育児疲れを癒す事ができる事もあり、遠慮のないシーンの中で三世代の日常的な関係性が築かれていきます。

実家から持って帰る食品は何?

実家からの帰りには果物、パンや惣菜、ソーセージやベーコンなどの加工食品などをもらって帰ってくることが多々あります。この時のソーセージや練製品はナショナルブランド(NB)商品が多いのには理由があります。このNB商品の購入者が実家の両親であることは想像に難くないところです。PBとNBの味や質の違いを知っているのが実家の両親であり、価格を比較して敬遠するのが娘夫婦、ここに孫が食べるという心理的なスイッチが入り、NB商品が娘夫婦に贈与されるというメカニズムが働くわけです。また、販売データではシニアの購入頻度が高いとされるヨーグルトやチーズのように、頻繁に遊びに来る孫が食べるために買い置きをするという三世代連鎖消費の性質が強い商品も存在します。

孫と一緒にマクドナルドに行きますか?

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マクドナルドもファミリーレストランも現在のシニア層と共に成長してきた。

実家の両親が団塊世代と仮定して食の背景を考えてみましょう。1971年に日本一号店を出店したのがマクドナルド。この年、団塊世代の先頭である1947年生まれの人の年齢は24歳でした。同じくすかいらーく一号店の出店は1970年です。団塊世代はマクドナルドやすかいらーくと一緒に成長してきた世代ということができます。当時のマクドナルドやすかいらーくはプレミアム感のあるアメリカンフードという位置づけでした。家族みんなで特別な食事をする場所として、マクドナルドやファミリーレストランの存在価値が高かったわけです。特に最近は何かと暗い話題の多い食事を敬遠する心理と、歳を重ね「旬」が食の決定要因になった今では、マクドナルドで孫とハンバーガーを食べることの価値が低下するのもやむを得ないのかもしれません。

ヤオコー(スーパー)の売場が支持される理由

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生活と生活の転換点としての<間食>シーンが増加している。間食シーンの増加に合わせてイートインの可能性も広がっている。

一方でデパ地下などの中食や、内食のクオリティは高くなりました。ヤオコー(スーパーマーケット)の富士見ららぽーと店は、ヤオコーの店舗の中でも特に実験的な試みをしています。スーパーの中にデパ地下(総菜売場)や駄菓子屋(菓子売場)が入っているような雰囲気といえば近いでしょうか。NB品は店舗中央に整然と並んでいます。ドライフルーツのケースなど、素材の品質はもちろんですが買物をする空間の提供にも配慮されているようです。ヤオコーのユーザーは野菜が新鮮と感じる、実演が楽しいなど、素材や雰囲気の良さを気に入っている人も多く見られます。インストアベーカリーのパンのクオリティが上がっているのも最近のスーパーの特徴といえます。ここにイートインが設置されることで、これまでファストフード店の価値だった食空間が、スーパーやコンビニにも波及してきているわけです。コンビニにベーカリーやラーメン店が併設される日もそう遠くないかもしれません。いえ、むしろそうなってしまうと途端に魅力を感じなくなるのが人の常というものでしょうか。

シニアと子育てママの健康な食事とは

2014年は約100万人の出生数です。このうち約47.5万人が第一子出産、第二子出産が36.5万人、第三子以降が16.5万人となっています。例えば二人の子育てをする家庭では第一子妊娠から第二子が3歳になるまでの約8年間は、妊娠中の体重管理や子どもの食事にアレルゲンを避けるなど、食には特に気を使わなければなりません。ここに三世代の食シーンを考えるヒントがあります。カロリー、塩分、糖分、油分、アレルゲンなど、妊娠中に敬遠される素材は、団塊世代が敬遠する素材の多くと共通しています。つまり、実家の両親と娘親子が三世代で同じ料理を食べることについては、全く違和感がないということになります。

クックパッドの人気レシピの共通点

三世代連鎖消費の食としては鍋がある。ここにフィットする商品でsあれば三世代一緒の食卓でなくても商品が動く可能性は十分ある。

冬の三世代の食卓としては鍋がある。ここにフィットするものは実家から持って帰る食品の中に入る可能性も十分ある。

このように見てくると、最近クックパッドの人気レシピなどに多い、旬を取り入れた料理や、デパ地下風レシピ、家庭的な和惣菜や中華惣菜、調味料の使い方を工夫した健康調理法などの人気が高まる理由がわかってきます。特に殿堂入りレシピ(つくれぽが1000件以上)を見てみるとその傾向は顕著です。三世代を中心とした食シーンを観察するとなるほどと頷けるインサイトが多く見つかります。例えば、秋冬は平日におでんが伸び、週末に鍋が伸びることがわかっています。大量に作って数日かけて食べる味の染み込んだおでんは、平日手軽に食べられるファストメニューとして食べられる一方、鍋は週末家族で囲んで〆で食べきります。このシーンからおでんと鍋が似て非なる料理ということを認識し、鍋が家族のごちそうになっている=三世代の食卓での提案可能性が高いのは鍋と仮説立てることができます。一つ一つ紐解いて食卓の実態とTPOPP(Time,Place,Occasion,Product,Psychology)がどのように関係しているかを分析することは、生活者に響く提案をする上で欠かせない作業です。

(執筆:辻中 玲)