tsujinaka のすべての投稿

「食のトレンド」を捉えるために -ビッグデータと生活日記調査-

ビッグデータでわからないこと、わかること

IMG_0277_year900

ビッグデータは切り口次第で大きな流れを捉えるために強力なツールとなる

ここ最近「食のトレンド」には、本当に多くのお問合せを頂いております。本音ベースでお話をさせていただくと、「食のトレンド」はビッグデータを、これまでに不可能だったあらゆる問題を解決してくれる魔法のデータだとは決して思っていません。扱い方次第では便利なのは確かですが、反面、むしろオタクのように細かく、どうでも良いような分析に没頭してしまうこともある扱いの難しいデータであるとも思っています。データを読み解くための視点と切り口が大切です。扱う範囲やユーザー層などによっても範囲が限られます。販売時点データや買い物データを分析される方にはよくおわかりかと思います。

例えばビッグデータで、真夏の暑い日にがそうめんが上昇するとします。同じ日に和風の煮物が上昇するとなれば、なんらかの関連性があると推測できます。さらに煮物は野菜が摂れるのが良いなどという多数のコメントがあれば気分までもある程度わかります。ひやむぎがここ数年で伸びてきたとなれば、来年もさらに関心が高まる可能性があることにも気づけます。

生活日記調査でしかわからない「食のトレンド」

sample1

生活全体を俯瞰して捉える生活日記調査のフォーマット

しかしその先がなかなかわかりません。実はこれを探る方法として、ビッグデータと対照的な生活日記調査という手法があります。生活日記調査の手法については、またの機会に説明するとして…

この手法を使うと、例えばそうめんと煮物が組み合わさった理由として、「炭水化物だけだと野菜不足になるから煮物にした。」「暑い日でもさっぱりメニューで野菜をしっかり食べたい。」、「そうめんには野菜たっぷりの煮物で和食でまとめた。」など、さらに細部の消費者の意識が見えてきます。消費者の多くが、そうめんと一緒に食べるおかずを探していることはわかっていましたが、そうめんは炭水化物のため野菜不足になるという認識がその裏側にはあることまで見えてきます。
めんつゆに合わせると、おかずはやはり和惣菜になってくることもわかってきます。(トマトそうめんにはラタトゥイユということになるのでしょうか…現実的になかなかハードルは高そうです。)

民族誌学(エスノグラフィー)の手法で「食のトレンド」を捉える

これはほんの一例ですが、実はこの日記調査、ここまでのことを掴むまでに調査対象者は20〜30人で十分です。100人見ても200人見るのも結構ですが、むしろ分析が大変になるだけで、傾向を掴む場合にはさほど大差はないということがわかっています。生活日記調査はエスノグラフィーという文化人類学の民族誌学の手法と共通しています。より対照を俯瞰的に見る視点さえあれば、リサーチの対照が例え少人数であっても的確に食のトレンドを捉えることができるのです。

データ分析

「ビッグデータ × 生活日記調査」全く対照的な手法を合わせることにより、精度の高い「食のトレンド」分析・研究ができます。

膨大な数量のビッグデータと、少ない対象を深く分析する生活日記調査、両者は正反対に見えて実はとても相性が良いと私たちは実感しています。互いに補完しあうことでより正確な傾向が見えてくるのです。当サイトは「ビッグデータ×生活日記調査」の両方の専門家が分析した情報を掲載しています。

「食のトレンド」では、11月から食を中心にした生活全体にまで視点を広げ、「ビッグデータ×生活日記調査」による分析・研究から導き出した「食のトレンド」レポートを定期購読会員限定で無料配信させていただくことになりました。会員登録はこちらからどうぞ。

【シニアの食のトレンド】シニアは食に何を求めているか

2015年夏に高齢世代(60〜80代)の男女約60人を対象に生活日記調査が行われました。その結果から、シニア層の食のトレンドについて掘り下げていきます。

シニアと「ソルティライチ」

688588284d15d00b839ed35754de2a71_s今回は真夏の調査でしたが、外出機会が減る高齢者のイメージに反して、とにかく猛暑の真っ際中でありながら、外出機会が非常に多いこと、加えて、一般的に食欲が落ちる猛暑にもかかわらず、ほとんど三食が欠食なく食べられていることが見えてきました。
生活全体を分析をしていくと、高齢者層にとって「食」は間違いなく元気の源になっていることが浮き彫りになりました。

さらに、水分補給には特に気をつけており、外出時には家から持参したお茶や、ペットボトルを携帯しています。また、ナトリウム補給系の飲料も多く出現します。「水分と一緒にナトリウム補給をして、低ナトリウム症にならないように気をつけましょう」という情報が届き、それらの新しい情報を取り入れています。出現した具体的な商品としては「ソルティライチ」が圧倒的で、1日に1本消費しているケースもありました。高齢者といえば、保守的で新しいもの(商品)にチャレンジしないと考えてしまいがちですが、全くそうではなく、むしろチャレンジブルな高齢者像がいくつも見えてきたのです。

シニアは朝食に何を食べているか

DSC_0140

象徴的だった78歳のおばあちゃんのある日の朝食

シニアの朝食の実態はどのようになっているでしょうか。はっきりとした特徴としてみられたのが、どんなに猛暑であろうと朝食を欠食することはなく、しっかりと食べられていて、さらにその大半がいわゆる「パン食」になっているということです。
ここでいう「パン食」とは洋食ということではなく、アイテムとして「パン」が選択されているということを意味しています。これは、どういうことでしょうか。パンにハムエッグやサラダが必ず組み合わされるわけではなく、例えば残り物のきんぴらや煮物がパンと一緒に登場するようなケースも多く見られました。
一方で「ごはん食」を見ると、確かに味噌汁が組み合されることが多くはなるものの、アイテムとして「ごはん」が選択されたとしても、ハムエッグやサラダが組み合わされることも多々見られました。
割合を見てみると「パン食」は朝食全体の約3/4を占めています。1週間の7食がずっと『パン食』の人が多いのですが、週に2回くらい『ごはん食』が混合したりすることもあります。

ここから、シニアの朝食では、「パン食=洋食」「ごはん食=和食」という垣根が取り払われ、非常に自由な組み立てになっているということがいえます。
「高齢になると朝はごはんを中心にした和食っぽい食事をする…」目隠しをしたままではそんなシーンを想像してしまいそうですが、それは古い思い込みが生み出した誤解といえます。

シニアの「朝食はパン食」は何故なのか

さて、さまざまな定量調査のデータを見ていても、この傾向はある程度の確証があるのも事実で、まずはシニアの「朝食はパン食」という実態については、認めておかなければなりません。

その上で、シニアが「朝食にパン食」を選択するかということについて考えて深堀りしていきます。「パンのほうが手間もかからないし、準備も簡単」、「後片づけも手間取らないし、お皿洗いもしなくてすむ」、「他に手間のかかるおかずなどの準備もいらない」、このようないわゆる”簡便””時短”が「朝食にパン食」を選択する理由と背景になっているのでしょうか。生活全体を可視化することによって決してこれらが、価値の本質ではないということが明らかになってきました。

もちろん「パン食」には”簡便””時短”の要素があるため、限られた選択肢しかない定量調査では必然的にここに集約されてしまいます。ここに大きな誤解と落とし穴があります。

「飼育員さん」というユーザー層

ここでシニアの朝食に対する価値観と対照的なユーザー層を見ておく必要があります。「飼育員さん」とは決して動物園の話ではありません。夫を出勤させ、子どもたちの朝食を準備して食べさせ、お弁当を作り、仕度をして自分も出勤する、いわゆる「ワーキングマザー」の食について私たちはこのように捉えています。ライオンやシマウマや羊の群れをなだめすかして飼育する、その典型が日常の食事シーンによく現れています。とにかく短時間に次々とやってくる育ち盛りの子供達に野菜や果物で栄養を与えなければならなりません。これは義務であり、ワーキングマザーにとっての朝食はつまり”えさ”であることから離れられません。このシーンでパンの持つベネフィットはなんでしょうか。やはり”時短”であることに違いないようです。

一方、シニアの朝食シーンを見てみると、時間の概念が天と地ほど違っていることに気づきます。シニアたちは彩りや楽しさを感じるから、旬の野菜や果物を食べるのであって、これは決して“えさ”ではないということが明らかになってきます。

シニアの朝食に”時短”は必要ない

まず、今回の日記調査で明確にわかったことの一つが、シニア層の朝食は決して忙しくはないということ。時間に追われて朝食を摂らなければならない理由がないのです。もちろん早起きの傾向はありますが、どうやら8時頃を中心に前後1時間くらいの幅のところが朝食タイム、30分から1時間は時間をかけているようです。テレビをみたり音楽を聴いたりしながらのゆったりとした時間を過ごしています。これは15分で朝食を準備しなければならないこともある、子育て世代(ワーキングマザー)とは全く性質の異なる朝食時間を過ごしていることを意味します。果たしてここに”時短”である必要性が存在するでしょうか。

もう一つは、パン食とはいいながら、そこに登場してくるアイテムが多彩であることです。まずコーヒーをドリップしてゆっくり飲みながらヨーグルトを食べます。それからおもむろに卵料理を作ってトーストを食べます。必ず出現してくるのが季節の野菜で、ミニサラダにしてみたり、温野菜にして食べたりすることもあります。そして当然季節のフルーツが出現してきます。今回の調査は8月上旬だったこともあり、旬のすいか、そして桃が必ず登場しました。それから食べ残していたバームクーヘンを少しつまんでもう一杯コーヒーを飲みます。果たしてここに”簡便”である必要性が存在するでしょうか。

シニアの食は「食べたいものを食べる」

食べたいものを食べる、これが“えさ”でない食事シーンをつくりあげます。私たちはこの食べたいものを食べることの実現を、“食べたい力”と呼んでいます。シニアにはこの“食べたい力”が備わっています。ここには簡便も時短も存在しません。ただ、過剰に手をかけたりしないだけなのです。

シニアの「朝食はパン食」の実態の裏側には、季節やその日の彩りを感じることが朝食の目的になっているという、シニアの生活価値を捉える大きなヒントがあるのです。

2015年6月の食のトレンド結果と2016年のトレンド予測

レシピサイトのトレンドや生活カレンダー調査、インターネット検索エンジンの動向などを複合的に分析した、2015年6月の食のトレンドの注目キーワードを期間限定にて公開しています。2015年5月に公開した事前予測は2015年6月の食のトレンド予測、2014年11月に公開した【2013年5〜6月】のトレンドも合わせてご覧ください。

しそジュース、おにぎらず、パンケーキ、七夕、トマト

a0027_002305_mしそジュースは前年同期比で人気度は減少しましたが、しそはクックパッドの「大葉にんにく醤油」や子育て世代のtwitterコミュニティでもヒットしている(詳細はこちら)要注目の素材で、2016年も期待できます。おにぎらずの人気度はおにぎりの半分程度のボリュームですが、弁当の需要期の5月を抜けても一定の人気を確保しています。10月に入ってもおにぎりやサンドイッチと連動する兆しがあり、ある程度の弁当需要もキャッチしている実力派といえそうです。「パンケーキ」との同時検索にエッグスンシングスなどハワイアンスタイルのパンケーキが検索されるのに対し、「ホットケーキ」との同時検索ではホットケーキミックスやクッキーなどが出現します。「ホットケーキ」はホットケーキミックスを使ったレシピ群という認識になっていると見られます。豆腐を使ったホットケーキヨーグルトを使ったホットケーキも根強い人気で、ケークサレなど食事系ケーキの伸びにも要注目です。トマトはトマトそうめんやズッキーニやなすと合わせた料理が伸びました。

朝食、卵焼き、ゴーヤチャンプルー、トースト、じゃがいも

a0002_005481_m卵焼きは弁当需要期ピークの4〜5月と比較すると減少しますが、6月も底堅い人気度となっています。ゴーヤチャンプルーは2015年はズッキーニに押されましたが引き続き高い人気となっています。トーストはチーズトースト、ガーリックトースト、ピザトースト、納豆トーストなど種類が豊富で美味しいトーストのレシピを求めています。トーストの食べ方提案には2016年もニーズがあります。じゃがいもはポテトサラダや焼き料理など多数の人気料理がありますが夏野菜と合わせるデパ地下風マリネサラダなどは要注目です。日本では野菜という認識のじゃがいもですが、世界的には米に続く生産高の主食としての側面があります。外国人向けの食では需要は伸びるとみられます。

フレンチトースト、梅シロップ、そうめん、おにぎり、ホットケーキ

a722c3fbe1a1c08f26610d5e539f093a_mフレンチトーストやホットケーキは特に土日の朝食、ブランチシーンの利用が多く、家族や恋人と食べて幸せを感じる性質を持っています。硬くなったフランスパンの救済としての利用や、ハムやチーズを挟んだフレンチトースト風サンドイッチのモンティクリストも上昇傾向にあります。昨年に引き続き、旬の梅シロップは上昇中で、ピークは6月9日前後です。ホットケーキはホットケーキミックスを使ったケーキ、クッキー、スコーンなどのレシピが人気上昇中です。そうめんは、トマトそうめんの他、そうめんチャンプルー、にゅうめんをはじめ、ひやむぎの関心が高まっています。そうめんと一緒に食べるおかずに関する検索が伸びるため、そうめんに合う惣菜の需要は高まると見られます。おにぎりは、おにぎりの具や、焼きおにぎり、肉巻きおにぎりの注目が高まっています。

梅ジュース、いんげん、父の日、お弁当、とうもろこし

a0002_011550梅酒、梅ジュースや、梅干しなど、梅を使ったレシピの検索数は梅生産量日本一を誇る和歌山県で特に増加し、梅ジュースの人気は全国的に高まっています。生梅は国産が主なのに対し、梅干しは輸入も出回っていますが、初夏に梅干しを使った料理の人気も高まります。旬の野菜としては、いんげんは、胡麻和えや豚肉巻きなど弁当やおつまみに使いやすいものが人気で、胡麻和えは特にマヨネーズで味を整えるものは要注目です。特に和惣菜では調味料の使い方が進化しています。父の日はイベントとしての特別感は低いものの、ステーキなどの肉料理やおつまみが伸びます。子供と一緒に食べられるハンバーグやローストビーフ、つくねや芋餅などのおつまみの人気は高まりお酒を共にした食卓となります。行楽や運動会の影響でお弁当の人気度は5月に引き続き一定のボリュームがあります。とうもろこしは簡単な茹で方や焼き方、コーンスープなど調理法の他、生で食べても美味しい品種「ゴールドラッシュ」や、白い品種「ピュアホワイト」への関心も高まっています。

旬の野菜、ズッキーニときゅうり

昨年に引き続きズッキーニが伸びる傾向にあります。6月が旬のズッキーニときゅうりの東京都中央卸売市場の取り扱い数量を比較すると、きゅうりはズッキーニの10倍以上の数量になっています。きゅうりが増減を繰り返して全体としては横ばいになっているのに対し、ズッキーニは東日本大震災の平成23年を除き取り扱い数量の増加が続いていることがわかります。

cucumber_6

東京都中央卸売市場では6月のきゅうりの取り扱い数量は横ばいになっている。

すでにメーカー・小売各社は、サラダやパスタなどズッキーニのレシピ提案は毎年続けてきていますが、確実にユーザーに浸透してきているようです。きゅうりもここ数年増加傾向にあります。全体のボリュームが大きいだけに、各種冷製料理の合わせ方や漬物など、トレンドの食べ方を分析し、2016年もメニュー提案の強化が必須です。

zucchini_6

ズッキーニの取り扱い数量は増加を続けており、着実に食卓に浸透している。

特に父の日の食は捉えどころがなく扱いが難しい印象がありますが、父の日は「父」と過ごすことが前提となるため、普段とは異なる生活動線になる傾向が見られます。例えばスポット的に現れる傾向として、外出やレジャーに繰り出して「父と過ごす」パターンです。必然的に、軽食としての弁当や外食へのニーズが高まりますが、メニューの決定権を主役である父が持つことになり、ステーキや中華料理が選択されやすくなります。内食においても、(普段のむね肉ではなく…)少しおいしい肉を食べながらビールやハイボールを飲みたいという父の心理があって当然なのです。多面的なデータを複合的に分析し、メニュー決定の深層心理を捉えることは2016年のトレンドを予測する上では必須であるといえます。

(執筆:辻中 玲)