ジーリサーチの近藤岳裕さんから、『食のトレンドレポート』の感想コメントをいただきました。全文ママで掲載致します。『アブダクション』は大変大切なポイントです。
日夜ビックデータに触れ、そのデータを利活用した事業開発や企画提案を仕事としているが、どうも手詰まり感を感じることが往々にしてある。そんな中、先日、松岡正剛の千夜千冊でこのような話が出ていた。
ビッグデータにもクラウドにも適確な解釈のための編集工学が必要だろうに、その着手がひどく遅れているのです。「タメになる情報」と「ダメになる情報」とがかたまりとして区別できないのですね。
ビッグデータの解析にとって最も必要なのはデータ・アナリシスだけではなくて、仮説力をもったアブダクティブ・アプローチであるのに、このことが理解されていないのです。
現在のビックデータビジネスは、システムやインフラ、ツールや手法の提供に特化されており、本当に大切な顧客の「価値」や世の中の「価値」をどう作るか?という本質的な部分が抜けてしまっていると感じることがある。冒頭の「手詰まり感」というのはまさしくこのことを指しているように感じている。
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日々の企業活動は未知なる正解・真実・事実と思われるものをつかむため、様々な研究開発、企画、製造、販売が行われる。この未知なる正解・真実・事実と思われるものは、当然のことながらそんなにすぐに目の前に現れてこない。
そんな中、よく使われている方法論に「演繹法」と「帰納法」という推論の方法論がある。各々をざっくりと説明すると以下のように論理を進めていき、結論にたどり着く方法論である。
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■演繹法
与えられた観察データを“説明する”ための論理を形成するものであり、使い方としては以下のように推論を進めていく。
・大前提:人は死ぬ
↓
・小前提:ソクラテスは人間である
↓
・結論:ソクラテスは死ぬ
つまり最初の「大前提」がとても大切で、ここに誤りや偏見があると結論は必然と歪んだモノ、誤った方向に向かっていってしまう。
■帰納法
これは観察データに“もとづいて”一般化をするための方法論である。使い方としては以下のように推論を進めていく。
・仮説:人は死ぬ
・観察結果:ソクラテスは死んだ、真田幸村は死んだ、リンカーンは死んだ、じいさんも隣の人も死んだ、
・結論:人は死ぬ
最初の仮説を設定した後、その仮説を証明するような事例を沢山の観察の中から集め、一般化してく。どこまで事例を集めれば一般化するか?という判断が難しいところがある。
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各々の推論は意識しているかどうかは別として、企業活動の様々な場面で活用されていると思う。
そして、第三の推論と言われる方法論がある。
それが「アブダクション」というものだ。
これは「仮説的推論」とも訳されることがあるが、言ってみれば「適切な説明のための仮説をつくる方法のこと」を指す。冒頭の千夜千冊の引用部分でいうところの「アブダクティブ・アプローチ」はまさしくこの「アブダクション」の方法論を使い対象に接することを指す。
前述した「演繹」も「帰納」もよく使われる方法ではあるが、両方共「仮説をどうやって作るか?」ということには踏み込んでいない。両推論ともにすでにある仮説、前提を元に目の前の情報群にアプローチする手法だからだ。
ちょっと乱暴な言い方をすると、全ての始まりは「仮説」である。と言える。
では、どうやってその「仮説」を作るか?
有効な課題を解決するための「仮説」をどうやって見つけるか。作れるか。
そこの方法論に踏み込んだのが「アブダクション」である。
この方法論はアメリカが産んだ偉大なる知の巨匠「チャールズ・サンダース・パース」が唱えた推論方法だ。
※Wikipedia:チャールズ・サンダース・パース
パース曰く、アブダクションを「新しいアイディア(観念)を導く唯一の論理的操作」と言っている。
詳細は「アブダクション―仮説と発見の論理」等の本を参照いただくとして、未知なる正解・真実・事実への道にアブダクション、つまりいかに有効で適切な仮説を作るかがとても大切になる。
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少し話は変わるが、IBMが世界中のCEO1,700名にインタビューした「IBM Global CEO Study」というインタビュー結果がある。
それを見てみると、「CEOは他のどの領域よりも、顧客動向の理解のために多くの投資を費やしている。70%以上のCEOが、顧客セグメンテーションを超えて、個々の顧客、すなわち「個」客について、より深く理解し、その変化に素早く対応することを狙っている。その意欲は、高業績企業のほうが明らかに高い。」とある。
顧客動向の理解、というのは非常に注力され、かつ多くの投資がなされている。
様々な視点で顧客動向の理解を得る取り組みがされていると思うが、顧客理解には人間の最も基本的な生活である「食生活」というのは外すことができない。
地域性、時代性、個人の性格、家族構成等、様々な視点を如実に表してくれるのが「食生活」と言える。
そしてそれゆえ、食生活の理解はアブダクティブなアプローチをするために必須のものとも言える。
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「アブダクティブなアプローチ」や「食生活の理解」は課題解決のための仮説設定や顧客理解に非常に有益な内容ではあるが、懸念点があるとすれば、「手間がかかる」「時間がかかる」「コストがかかる」そして、有益な仮説を作るための洞察力、そして知見や知識の対象が非常に範囲が広い、ということが言える。
一人一人のビジネスマンが個々に取り組むにはあまりにも対象が広く、深い。
そんな中「食のトレンドレポート」は、辻中俊樹氏が過去の豊富な経験と幅広い知見を元に大海原に落ちている針のような仮説や事実や洞察を一つ一つ拾い上げ、我々の所にラッピングして届けてくれる。
これを無料で、というのは恐縮過ぎる内容になっている。
これからの企業活動においてより必要になるであろう「アブダクティブなアプローチ」と「顧客を理解」するということとって、これほど有益な情報は他にはなかなかないものになっているのではないだろうか。
ビジネスマンには必携のレポートであると断言できる。