【news】「食欲」に立ち返ることが大切だと気づかされた

辻中俊樹 櫻井光行 著「マーケティングの嘘 -団塊シニアと子育てママの真実-」(新潮新書)

辻中俊樹 櫻井光行 著「マーケティングの嘘 -団塊シニアと子育てママの真実-」新潮新書刊

「トレンドレポート」の執筆者である辻中俊樹と、昨年新潮新書より「マーケティングの嘘」を共著で出版した櫻井光行さんよりコメントをいただきました。全文を掲載しますのでレポートの読み方のご参考になればと思います。

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生活者に一週間の日記調査をやってもらうと、驚くほど同じことの繰り返しであることが多い。毎日同じ時間に起床し、朝食をとり、家を出て、同じ電車に乗り、コンビニに寄り、出社し…。朝食のメニューもほとんど同じかもしれない。このように習慣化した日常は、継続的に固定した消費を生み出すので、マーケティング的に悪いことではない。しかし、辻中さんがこの連載で一貫して着目しているのは、繰り返される日常の中に現れる「微変化」だ。例えば、平日はいつも「ツナマヨトースト」だけど、ちょっと飽きたから「チーズハムトースト」に。休日のブランチの「フレンチトースト」も、平日=日常に対する微変化である。休日のフレンチトーストも毎週繰り返されれば、今度はそれが日常になる。次のレベルで現れる微変化は季節に合わせたメニューだ。検索キーワードから微変化を捉えること、それこそ売上を伸ばすためのチャンスの発見に他ならない。その目の付け所が実に鮮やかだ。

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辻中さんの言う「飼育員さん」の家庭のメニューを規定するのは、子供である。子供が小さい頃は、子供に食べさせたいものという意向が働いたり、ある程度大きくなると、とにかくコストパーが良いものという傾向が出てきたりするが、子供が喜ぶものが基本といえる。それに対して、子供が巣立った後のシニア世帯のメニューを規定しているのは何なのだろう? 辻中さんは、それを「旬・季節感」、更にそれによって起動する「食べたい力」だとしている。なるほどなと思った。子供のいる世帯でも旬や季節感は重要だが、シニア世帯では子供という要因がなくなることで、本当に食べたいものへの欲求が前面に出てくるのではないか。食のマーケティングでは社会のトレンド(レポートのタイトルだった!)を読んだり、作ったりすることも重要だけれど、その根本にある有史以来人間が培ってきた「食欲」に立ち返ることが大切だと気づかされた。