食のトレンド文庫「スーパーマーケットの食トレンド」むかしはいまの物語

【スーパーマーケットのマーケティング事始 第5回】スーパーマーケットの新規需要開発の方向性

惣菜・デリが生鮮食品の売上を侵食

コンビニデリのように新しい食シーンを開拓できなかったスーパーマーケットの惣菜だが、現状では否応なしに惣菜を強化しなければならなくなっている。その要因の一つは、いうまでもなく高齢化の進展だ。これまでスーパーの売上を支えてくれた女性も、高齢化とともに家庭で調理する機会も減る。なぜなら子どもが独立して、夫婦あるいは自分一人だけになれば、ごく普通の量を調理しても、持てあましてしまうことが多いからだ。例えば常備菜の側面もある“きんぴらごぼう“も大量につくってしまうと、一人暮らしの高齢者は、きんぴらごぼうを何日も食べ続けなければならない事態となる。

高齢者の買物また高齢化による気力・体力の衰えも手づくり調理を阻害する大きな要因になる。加齢とともに筋力が落ち、台所に立って調理することが苦痛になる。それでも食べてくれる子どもや孫でもいれば、まだ調理しようという気になるが、一人暮らしであればつい出来あいの弁当や惣菜を買ってしまいがち。つまりスーパーにとって、これまで生鮮食品を購入してくれていた顧客が加齢とともに惣菜やパックの調理済み商品にシフト、買物の中身が大きく変わりつつあるのだ。

ただシニア層の女性は、自分の成長期に登場したスーパーマーケットへの親和性が高いことと、健康のためにシニアカートを押してでも、歩いて買物に行きたいと考える人が多く、都市部のスーパーでは、いまもなお主力客層となっている。

スーパーマーケットが生鮮食品や日配だけでは立ち行かなくなっている、もう一つの要因は30代、40代の若いファミリーも共働き世帯が増え、食事を全て手づくりする主婦が少なくなっていることがある。逆にいえば最近の主婦は、サラダやみそ汁だけは手づくりするけれど、メーンディッシュやサブディッシュは惣菜で済ませたり、生鮮食品を購入する場合も刺身や野菜炒めセットにするなど、「家庭の食事は手づくりしなければならない」という縛りから自由になっている。それだけにいまのスーパーマーケットは、惣菜はいうに及ばず、生鮮食品でも手を掛けずすぐ食べられる即食商品が充実していなければ、利用者の食生活に対応できなくなっている。

二極化するスーパーマーケットの惣菜売場

この結果、最近のスーパーの惣菜は二極化の傾向が顕著になってきた。一つは和惣菜、揚げ物、弁当、寿司など一通りの商品は揃っているが、メニューは定番商品中心で、いつ来店してもほとんど変わり映えしない店舗。これはこれで定番の惣菜をあてにしている顧客にとっては重要なポイントだ。しかし、いつ来店しても同じメニューしかないとなれば、惣菜でも食卓に変化をつけたいと考えている多くの顧客にとっては「使えないスーパー」ということになる。必然的に惣菜の売上構成比は7~8%にとどまり、店舗全体の売上増にはつながらない。

惣菜・デリもう一つのパターンは、商品の見せ方をセンスアップしたうえで、商品開発力を強化して品揃えの幅を広げた店舗だ。取り扱いメニュー数はかなりの数に上るし、なおかつ季節性や流行、食材の旬に合わせたメニューの切り替えが頻繁に行われ、顧客の食事のバラエティニーズに対応している。

この惣菜提供パターンで重要なことは、売場のスペースを、惣菜と併設のベーカリー売場から割り振り、それから逆算して青果、鮮魚、精肉、和洋日配などの売場を組み立てていること。つまり、いまスーパーが顧客の食生活の満足度を上げるためには、惣菜の売場スペースを十分に取り、揚げ物、グリルメニュー、焼き鳥、にぎり寿司、弁当、おにぎり、サラダ、焼き立てピザなどメーンディッシュ、サブディッシュを過不足なく品揃えする必要があるということだ。

こうした新しい食生活を提案できる惣菜売場を組み立て、定番商品に新商品をプラスして提案力を上げれば、デパ地下の惣菜に流れていたニーズを一部取り返すことも可能。ヤオコー、阪急オアシス、ライフストアなど惣菜が好調なSMチェーンは、惣菜だけではなく、ちょっとおしゃれなデリカテッセン需要もキャッチ、惣菜の売上構成比を13%強にまで引き上げている。しかもこれらのチェーンの惣菜の粗利益率は非常に高く、人件費コストは大きいが利益面でも貢献度が高い。

新たな食シーンの開発で売上アップを図る

しかし、一定の成功を収めているように見える、最近のスーパーの惣菜だが、コンビニ惣菜との決定的な違いがある。それはコンビニが中食市場を開拓したような新市場の開拓がスーパーの惣菜には出来ていないこと。ヤオコーや阪急オアシス、ライフストアのように他業態の売上を一部奪取しているチェーンもあるが、これも決して新市場開発というわけではない。

イートインコーナーそのためここへきてSMチェーン各社では、弁当や惣菜あるいはスイーツを食べることのできるイートインコーナーを設置する店舗が増えている。それにより一部の店舗では、昼食時間帯に周辺の事業所に勤める女性や自動車整備工場などで働く男性がパスタとカップスープ、弁当とカップみそ汁などを購入、イートインコーナーで昼食を摂るケースが増えている。仮に100人のお客さまが500円の昼食代を払ってくれれば、5万円の売上がプラスされる。平日20日として100万円の売上増になる。

しかもこれは、これまでスーパーにはほとんど縁のなかった人を顧客化できるという意味で効果は大きい。周辺事業所で働く男性は、結婚していれば奥さんを通じてスーパーとは接点を持っているが、本人は直接縁はなかったはず。たとえ500円の昼食だけであっても、一度スーパーと接点ができれば、お酒やおつまみに拡大、ロイヤルユーザー化につながる可能性もある。

ただ現実的には、スーパーのイートインコーナーは、高齢者や主婦が買物の際に休憩に利用されるのがもっぱらで、惣菜やベーカリーによる中食需要開拓になっているケースはまだ少ない。それはスーパーのイートインコーナーは、このように活用できるというイメージが確立されていないことが大きい。そういう点でいえば、大手量販店チェーンや大手SMチェーンが、イートインコーナーでのシニアの朝食シーンや働く男性の昼食シーンをアピール、スーパーマーケットはこんな使い方もできるということを消費者に伝えたい。セブン-イレブンがセブンプレミアムのパック惣菜を扱い始めた時、初老の夫婦のお昼のシーンをテーマとしたテレビCMを大量投入し、一気にパック惣菜の使い勝手の良さを浸透させたことは記憶に新しい。単に売場に手を入れるだけではなく、それが具体的にどのように自分たちの暮らしに活用できるかというイメージを伝えることは想像以上に重要なポイントだ。

惣菜・デリを軸にしたスーパーマーケットの需要開発

執筆:山口 拓二

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