【続『マーケティングの嘘』】―天気予報というビッグデータをとらえる⑤―

<1>異常気象というものが定常化する

とりわけ、ここ数年、異常気象ということがよく言われます。また、狭い地域の中でのゲリラ豪雨などの異常が多発する。こういった傾向は、少なくとも中期的に見て、そう簡単には戻らないと思います。今の異常気象の主たる原因は地球温暖化ガスと言われている CO2の濃度が増えてきているということなので、今そういう二酸化炭素はなるべく排出しないようにと言われているけれども、実際にそれが気候の影響として出てくるまでには、何十年かたたないとその効果は出てこない。少なくとも、向こう50年レベルでは急に気候が戻る、ということはないので、温暖化が進むのは間違いないと思います。

二酸化炭素が爆発的に増えるということさえなければ、本来は、今はむしろ、氷河期に向かって行く時期だったと言われています。でも、それが起こったことによって気温が上がってしまっている。地球というのは自浄作用と言うか、ちょっと気温が上がると逆に気温を下げようというフィードバックが起こる。なんとなく、バランスが取れてきたわけですけれども、昨今の活発な人間活動になって急速に二酸化炭素の濃度が増えて、それはフィードバックで地球の自浄作用で温度が戻るという範疇を超えて気温が上がってしまっているので、そう簡単には戻らない。

温暖化によって、海水温とか地面の温度は上がっているけれども、上空の寒気と言われるものは、毎年やって来るので、上空の気温はあんまり急に上がっているという訳ではないんです。ですから、昔と比べて上空の温度と地表・海水温度と、その両者の温度差が大きくなってきている。温度差が大きくなるとその分、対流活動が活発になりますから、いろいろゲリラ豪雨が起こりやすくなったり、そういった極端な気象現象が起こりやすくなる。こういった極端な気象が、生活実感に影響していくのだろうと思います。

<2>秋の到来の実感を再構築する

加えて、四季がなくなっているという体感などの傾向も結構強いと思います。言えるのは、春と秋が短くなってきているという事です。冬というのはシベリア方面からの寒気なので、それは、まあ毎年来るので、地球が温暖化してると言っても、やはり寒気は来るのですね。一方で、夏場の太平洋高気圧はやはり強くなっている。だから、夏は長くなっているのです。それは間違いなく言える現象です。夏は長くなる、冬も今の所しっかりある、ということになると、やっぱり秋が短くなる、春が短くなるという事ですね。だから今年も、今日ようやく気温が東京では10度を下回って涼しくなりましたけれども、これでようやく平年並みの冷え込みということです。今日ものすごく寒いなあと感じるかもしれないですけれども、これが本来の陽気です。ずっと冷え込みが弱い状態でダラダラ進んで、それは夏の延長上のような感じで、例えば10月になっても30度超えたこともありますし、それが、どこかのタイミングで急に冬に転換する。

まあ今年は暖冬なので一気に冬になるという可能性は低いです。ただ、つい3年前、東京でも11月24日に雪が降ったことがあります。11月24日というのはもう再来週ですからね。今は、本来、もう雪が降ってもおかしくないという所にまで、季節は来ている。でも、今年は、まだ10度近くまで先週はあった訳ですから。そういった感じで夏が長くなって、冬もしっかりあって、春と秋が短くなってきているというのが傾向なんで、それがしばらく続いて、場合によっては、秋がなくなる位になるかもしれない。

たとえば、8月の前半のお盆前の頃からコンビニではおでんが売られる。まだまだ真夏の真っ盛りという感じではあるのですが、気象条件的には全く根拠ない訳ではないです。平年気温、つまり、過去30年間の平均気温のことを言うんですけれども、それで見ると、一番気温が高いのが8月1日から7日なんですね。関東に関しては。それが一年で一番暑い時期。逆に一番寒いのは“大寒”と言われる1月20日前後から、立春と呼ばれる2月4日頃、そこが1年中で1番寒い。だから、8月5日前後を過ぎると、気温というのはダウントレンドになっていく。ただダウントレンドになり始めの頃は、そんなに言うほど季節が進んでいる訳ではない。だから季節性のものが爆発的に売れる訳ではないんだけれども、データをよく見ると、お盆過ぎたあたりからダウントレンドが明らかになって、傾向が急になるんですね。で、衝動的に、秋を感じる人が多くなってくる。そこで爆発的に季節のものが売れると。そういう流れになっていく訳です。ですから、8月5日というのは全く根拠ない訳ではないんです。さすがにそれ以上前倒しというのは無理だと思います。そこがギリギリ限界なんだと思います。

<3>「差分」という生活実感、1次情報

ありがとうございました。地球レベルの問題というのもあるけれども、僕が一番思っているのは「差分」ですね。差が、どういう風に存在しているかということが、ウェザーケティング、ウェザーマーチャンダイジングで一番大事なところだと思いました。絶対的な尺度で見た温度データというのは確かにあります。ただ、「差分」というのは相対的なものですから。

例えば、8月6日ぐらいが立秋でしょ。結構当たってるんだなぁと僕は思ったんですけれども、天気予報を見ると、34度だったものが31度になっただけで、涼しく感じてしまうので、立秋の頃、間違いなくその辺で、「差分」を感じることがあるということです。それで、おでんも肉まんも売れるよな、という気はする訳です。だから、重要なのは「差分」ということなんだと思います。「秋ってなあに?」って言われた時に、これは「差分」ということが言えると思います。それは昇温期と降温期という、常盤さんの別のインデックスがあるんだけれども、昇温期っていうのは、18度なのに Tシャツ着たくなるとか。一方、降温期に18度だったら、そろそろ、もうフリース着たくなるとか、そういうのがやっぱり支配的な影響があるんだろうと思います。

1日の中で、すごい「差分」があるというのが、今の暮らしなんだと思います。だから1日の中に春夏秋冬を常に感じていなければいけない。朝起きた時は極寒なんだけれども、電車乗ったら真夏じゃない?みたいなことがあるとか、そういう1日の中の「差分」をどういうふうに考えていくかということなんでしょうね。1日の中で、おでん、肉まん、アイス、麦茶を繰り返していくということだと僕は思っています。

よく、データの解析の一番頭に、前年比で気温が書かれていることがありますね。前年のことなんて覚えている訳がない。常に「差分」で捉えられるのは、朝と夜とか、3日前とか一週間前とか。そこら辺りまでが、人間の実感の限界なんじゃないかなと思っています。

<4>インデックスを生活実感につけていく

あともう一つ重要だなというのは、インデックスの問題、指標の問題ですね。どこからどういうデータを持ってくるかということ。気象データでは、私は日照時間も非常に重要だと思っています。9月って大体日照時間が短い。そもそも、10月も11月初旬も、今年は東京はえらく日照時間が少なかった。それで、食べたい物も変わります。本当はもっと多様なインデックスがあり得るんだと思います。(このシリーズ終わり)


まとめ/辻中俊樹

ロカンダ世田谷マーケティングサロン(2018年11月15日実施より)


常盤勝美

大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング 関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。 気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター