<1>“暑い”“寒い”ってそもそもなんだろう!?
天気の変化とそれに紐づく人間の体の変化の関係を考えた時、中でも、購買行動・消費行動が決まるプロセスを考えて見た時に、まず、天気に関する人間の感情は「暑い、寒い」があります。それを我々は当たり前に感じているけれども、“暑い”が、どういったことなのか?これを、真面目に研究してみると、「体温が上がりすぎていますよ」という体からの悲鳴と言えます。体温が上がりすぎた場合は、熱中症・熱射病などで、場合によっては死の危険がありますから、体温の上がり過ぎ、というのは人間の体にとっては、やはり一種の悲鳴な訳です。で、その悲鳴に対して、体温を下げなければいけないという欲求が働くのです。
「ホメオスタシス」と言いますけれども、外的な要因によって人間の体にストレスがかかった時に、人間は本能的に元の体温に戻ろうとする、つまり、健康な状態に戻ろうとする。それに近いような考え方ですけれども、“暑い”という感じ方は、体温が上がりすぎて、下げなきゃいけない、という欲求からきている。その結果として、冷たいものが欲しくなる、冷房をつける、薄着にする、そういった形で、体温の上がりすぎを阻止しようとする。それが商品に繋がって、暑い時にアイスクリームが食べたくなったり、ということが起きる。寒い時はその逆です。寒いというのはどういうことかというと、体温が下がりすぎているよ、という体からの声。それに対して、体温を上げなきゃという欲求が働くので、熱いものが食べたくなるとか、カロリーの高いもので熱を生み出して体温を上げようとしたり、あるいは、暖房をつけたりとか、そういう行動パターンが生まれる。そういったものが基本的な考え方です。
では、“暑い”と“寒い”の境目ってどうなの?という点も研究された方がいます。自分達の研究室の学生を使って人工気候室に学生さんを放り込んで、いろんな温度を設定して、 その都度、暑いか・寒いか・ちょうどいいか聞いた訳です。結果、大体22度から25度ぐらいの時に、暑くもなく寒くもなく、比較的快適と感じていることが多い。ということで、“中立温度”とその先生が名付けて 、そこがひとつの重要な転換点と考えられるとしたのです。
25度を境にして、ニーズがガラッと変わるのですから、私の本でも25度を超えるとアイスクリームが売れるという考え方を言っています。実際25度から30度というのが人間の死亡率が一番低い温度帯らしいのです。温度が低いと、高血圧や循環器系の病気で死亡率が上がる。一方、温度が高すぎると、熱中症で死亡率がやはり上がってしまう。25度から30度が、人間にとって気象のストレスが一番少ない、居心地が良い、心地が良い温度帯ということです。夏場は30度から35度、時に40度近いところまで温度が上がる。冬は氷点下まで。温度だけではなくて、夏は蒸し暑くて、湿度が90とか100とか行く訳ですけれども、冬場は20~30%まで湿度が下がる。そういった形で気温だけではなく、湿度もダイナミックに変化していく。湿度についても、人間にとって心地良い湿度というのはあるのですけれども、そこから湿度が高い、あるいは低いと場合には、その状態を嫌って、体の中にいろんなメカニズムが働いてくる。
湿度が低すぎると、体から水分が奪われていくので、それを避けようとして、皮膚の表面をカサカサにして、体の中の水分を守ろうとする。いわゆる荒れる、アレルギー的なと言うか、体を守るための反応が起こる。それが肌がカサカサになるという現象です。あとは、湿度が高い時は菌が繁殖しやすくなりますので、水虫とか。逆に低い時は、インフルエンザウイルスとかそういう菌が活性化しやすくなる。そのように、外的な要因が色々変わって、それに対して人間は常に健康な状態を維持しようという傾向があるので、それに伴って欲求ですとか、アレルギーも含めて、そういった反応が出てくる。
それが結果的に、ニーズに繋がってくる。それもある程度整理していくとパターンになって出てくる。一番、典型的なものが、味覚がポイントなんですが、味覚っていうのは甘味とか辛味とか代表的なものが5つあるんですけれども、その味覚に対しての反応、つまり、美味しい・不味い・何も感じない、その点でも人間のメカニズムを考えるとある意味が浮かんでくる。
<2>美味しいという事とお天気の関係
美味しいとか美味しそうと感じるというのは、多分人間の体の中で、特定の栄養素ばかり食べ続ける。あるいは季節によっては、栄養のバランスが崩れる。その栄養のバランスが崩れた時に、不足している栄養素を見ると、本能的にこの栄養素を摂取したいと感じて、それがなんとなく美味しそうに見える。人間の進化の中でそういう DNA が出来上がってきたという事ではないかと。いわゆる、青いものを見ると食欲が湧かないという現象も、多分、青い植物には人間が必要とする栄養が含まれていない、そういう植物と人間の関係を反映しているというふうに考えられる。それが赤とか黄色に色づいた時には、人間に必要な栄養素が含まれるようになっている、その時に初めて美味しそうと感じられて、それを食べて、栄養素を摂取することができる、というようにつながっていくんだと考えられる。一番わかりやすいパターンは、気温が高くて暑い時には、辛い物あるいは酸味がある物を好む。気温が低くて寒く感じる時は甘味があるものを好む。どんな時にも通じるわけではないけれども、おおよそ、このパターンで感じられる。
なんで寒い時に甘い物が美味しく感じられるかと言うと、先ほど言いましたように、寒い時には体温を上げようとするニーズが起こりますから、どういうことをするかというと、一番分かりやすいのは、炭水化物、糖分を摂る。それで、すぐに熱に変える。それによって低体温を防ぐ、そこに満足感が生まれる。それが、秋冬寒い時に起きるから、この季節には甘いものが欲しくなる。それに対して、春夏の気温の高い時には、むしろ必要ないんで、食欲が減退すると言うか、あんまり食欲が湧かない。本来は炭水化物だけ控えればいいんですけれども、食欲まで控えてしまうと、それ以外の栄養素も不足してしまうので、ピンポイントでビタミンとかタンパク質を摂らないといけない、そのために酸味があるものを好ましく思うようになる。あるいは、辛味は新陳代謝を高めて、汗をかいたりして、体温を下げる、それで暑い時には、香辛料を含む辛いものが好まれる。
<3>季節の端境期と中華、イタリアン
後は、気象学と言いながら、気候風土的なところにも話が広がっていくんですが、どういう時期に具体的にどういった食材を食べればいいかというのは、今でこそ、物流が発達しているんで、それこそ外国からでも食材を持ってくることができるけれども、まだ物流が発達していない頃、江戸時代以前には、身近にあるものを食べて、それで健康な状態を維持できるように、歴史的に体が出来上がってきている。それが、今の地産地消が有効な意味でもあるんだけれども、例えば、イヌイットはアザラシを食べて栄養補給する。それを日本人が食べても、あんまり栄養にはならないんですね。それというのは、やはり日本人が、身近にある植物動物を食べて生きてきた進化の歴史とイヌイットの進化の歴史とは違うということが背景にある訳です。日本人が身近にある食材を食べて“旬”と言おう、それを積極的に摂るという食文化を定着させる、ということだったんだと思います。旬の食材だから健康になるじゃなくて、健康になるための食材を集めて、昔の人はそれを“旬”と読んだということなんだと思います。旬の食材を集めて作った料理が、その土地に定着してきた。それが風土料理であったり、地場料理であったり、家庭料理であったりということなんだと思います。大体、夏に向かって暑くなる時期、冬に向かって寒くなる時期、というのは、大体、風土料理と言うか典型的な料理というのがある。
ですから、秋冬の寒い時は鍋料理があるとか、春夏の暑い時には冷やし麺であるとか、ソバであるとか、そういったものが売れる。では、季節に逆行した陽気の時は何か食べられるかと言うと、例えば秋冬に向かって鍋物ばっかり食べられるかと言うと、それはそれで栄養バランスが偏る。だんだん飽きてくる。だから、秋冬なんだけれどもちょっと暖かいという時には、鍋じゃなくて別のものを食べようかなという感情が生まれてきて、その結果、どういう所に行くかと言うと、無国籍料理ですね。中華とかイタリアンとかフレンチとかそういったところが伸びる。実際の POS データを見ると、季節の端境期とか、季節の逆行した陽気の時には、中華とかイタリアンとかというのが伸びてくる。これは実際にスーパーさんの営業企画とか販促担当の方はよくされている事ですけれども、冬の終わりの2月の後半から3月は、結構、どこのチェーンもイタリアンフェアとかサラダフェアとか中華フェアとかやるんですね。秋冬も同じです。8月、9月に、やっぱり同じことをする。ある意味、中華料理というのは気温が高い時も低い時もいろんなバリエーションがあるので、万能な料理という側面もあるけれども、季節に逆行した陽気の時に和食以外のところが好まれるというのもひとつのパターンです。(次回に続く)
まとめ/辻中俊樹
※ロカンダ世田谷マーケティングサロン(2018年11月15日実施より)
常盤勝美
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング 関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。 気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター