【続『マーケティングの嘘』】―天気予報というビッグデータをとらえる④―

―<1>おでんはいつ食べたくなり始めるのか

セブンイレブンさんとの取引で単純に天気予報を出すっていうところも重要だったんですが、仮説検証というのはずっとやってきた企業なので、お天気の中でも色々仮説があって、それを議論してきたのです。その中で秋冬のおでんとか、春夏の冷やし麺というのを、もっと早くしたら売れるんじゃないかとか、時期をずらしたりして検証してきたんですけれども、まだ、2月、3月であっても、春のような初夏のような陽気になる時がある。大体、2月20日ぐらいになると春一番が吹いて、春のような陽気になる。秋冬も同じですね。8月のお盆休み明けになると、8月20日くらいになると、気温がちょっと下がって、秋のような気配を感じることがある。そういった時に、ひょっとしたら、おでんが売れるんじゃないか?あるいは、冷やし麺が売れるんじゃないか?そういう仮説検証をしていく中で、当時、まだ、20、30年前は、おでんと言うと9月の中旬ぐらいからコンビニで売り出していたんですけれども、徐々に、前倒してきて、最近の行き着いたところでは、おでんであれば、お盆休みが明けた頃から展開する。実際には露出自体はお盆休み前から始めている。本格的に実売が始まるのはお盆明けから。冷やし麺に関しても2月の中旬ぐらいから露出を始めて、2月の下旬あるいは3月からは実売を始めるそういうことをさせて頂いてました。

 

セブンイレブン・イトーヨーカドーの担当の方と話をして、実際に会社からの指示でですね、イトーヨーカドー津田沼店に一週間張り付いて、色々、パートさんとか、発注担当の女性とか、店長さんであるとか発注担当部門に一週間いたことがあって、お天気が実際にそういう現場でどういう風に役に立つのか、どういう風に使われているのか、どういうリスクがあるのか、というのを分析と言うか調査をさせてもらって、当時、たまたま、イトーヨーカドーが次のシステム改変時期だったので、では、次のシステム時にどういう気象データを入れましょうか、とか、そういった事もやらせて頂きました。

<2>伊右衛門と春夏秋冬

流通小売に指導する事が多かったんですけれども、さっき言った理論というのは流通だけではなく、メーカーに対しても使える方法なので、紀文さんを初めとして、いろんなメーカーともお付き合いさせて頂いた。一つ典型的な例は2、3年前サントリーさんの「伊右衛門」という飲み物があって、季節によって、フレーバーを変えるというのを1年間やっていた。春先はちょっと苦味が濃いフレーバーで、パッケージもこうしてとか、あるいは、秋口は、ちょっと渋みが濃いフレーバーにしてとか、数パターンあったと思います。どういう時期にどういうフレーバーを出したら良いかと、商品企画の担当者の方等にレクチャーをしたりという事もありました。

 

コンビニエンスストアの中でも、ソフトクリームを結構売られている千葉方面のコンビニがあって、そこからも色々課題を頂いて、分析をしたことがあるのです。バニラは、一年中売れるフレーバーなので、別に王道でいいんですけれども、では、バニラに次ぐフレーバーというのは、どういう時期にどのフレーバーを展開していけばいいのか良くわからなかった。例えば、マンゴーとかかぼちゃとか、ベルギーチョコレートとか、そういったフレーバーを、どう当てはめていけばいいのかという課題を頂いて。先ほどの甘味ですとか旬をカレンダー上に落として、それを基にして、実際にお店で商品を展開するとか、販促チラシ・ CM の実施をする、そのお手伝いをさせてもらいました。最近は、聞かないですけれども、8月9月にベルギーチョコをバーンと展開するみたいなのが一時期流行ったけれども、そういった所にも関わっていました。

 

余談ですが、天気の影響で売れ行きが伸びるものを中心に先ほどからご紹介をしていますけれども、天気に関係なく売れる商品というのも実はあります。天気に関わらず売れますから、大体、来店数さえ読めれば売れ数も読める商品な訳です。暑いから売れる、寒いから売れるじゃなくって、ある一定の割合で売れるので何個売れるか、来店数さえ分かればわかる。これも重要なマーチャンダイジングなんですね。

 

典型的なものが三つあって、卵・納豆・食パンです。これは暑いから寒いからということでブレはない。食パンは、秋のピクニックシーズンのサンドイッチ使用で伸びるとか、卵に関しても、厳密に言うと、夏場は食中毒を嫌ってちょっと売上が低迷するとか、そういうことはあるんですけれども、基本的には、天気にかかわらず安定的に売れる。もっとも、売れている量自体が相当ありますから、多少の変動は相対的に吸収されてしまうという面もあります。

 

そういったことを考えていくと、東日本大震災の時にすぐ売り場から空っぽになってしまった、ヨーグルトというカテゴリーがあります。天気に関係なく安定的に売れます。ただ、ヨーグルトは昔は暑い時に売れていたんです。酸味であるとか、冷たいものということで、季節性があったんです。けれども、最近は、ヨーグルトは年がら年中、天気に関わらず売れるようになってきて、通年商品に変化してきている。常備品ですね。常に冷蔵庫の中にストックがあるというように変わってきています。

<3>冬のハーゲンダッツ、夏のひざ掛け

先ほど、冬にもハーゲンダッツが売れていると、おっしゃっていたのは、そういう生活環境の進化に合わせてMD をやっているという対応の一つの現れだと思います。夏場でも住環境、職場環境、かなり整っているので、かなり温度が低く設定されていて、かえって寒くなってしまうから、最近のトレンドとしては、そんなに爆発的に売れる訳ではないけれども、夏場には、必ずひざ掛けが売れる、カイロが売れる、そういうのはわずかですがやっぱり見られるのです。季節による売上の変動が大きい食品メーカーさんは売上が低迷するちょっと不得意な季節であっても売れる商品を考えて、売上の安定化を図る。その中で比較的、成功したのがハーゲンダッツということが言えるんじゃないかと思います。夏は比較的どちらかと言うとシャーベットに近いようなフレーバーのものを出している、冬場は甘い、お芋とかちょっとボリュームのあるものを出す、という感じで季節によって味覚フレーバーを出し分けることによって、冬向きのアイスクリーム、夏向きのアイスクリームというのを分けている。そういう事を MD でしっかりやられているんじゃないかと思います。

 

秋冬に甘いものというのは、さっきお話ししましたけれども、チョコレートの新商品が出るのがやっぱり秋口の8月9月ぐらいですか?(8月の20日頃です)そうですね。やはりその頃、涼しいなと感じ始めて、甘いものに対する興味が高まっていくので、そのタイミングに合わせて、結構、企業としてはやられているんじゃないかと。そういうのは、色んな所で使われていて、言ってみれば当たり前の事なんですけれども、よく言われるのが、車の RV 車が、アウトドアシーズンに向かって、春先に出ると、秋口にそういったものを出さないですよね。

 

ただ、家庭の中では室温環境と外気環境が違うので、そこは、よりバランスよく考えなければいけないです。だから、冬だからこれが売れる、というのはそんなに室内の温度環境が整っていない時期の事ですけれども、さっき、体感気温、体感温度というお話をしましたから、いろんなところの温度変化、自宅・職場・外の温度変化が重要になってくるので、そこを意識しながらMDを展開するのが非常に重要なポイントだと思います。

(次回に続く)


まとめ/辻中俊樹

ロカンダ世田谷マーケティングサロン(2018年11月15日実施より)

 


常盤勝美

大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング 関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。 気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター