食のトレンド文庫「スーパーマーケットの食トレンド」むかしはいまの物語

【スーパーマーケットのマーケティング事始 第12回】日本人の生活変化と「中食」の誕生

「中食」とは何か

いまやすっかり市民権を得た「中食」。「内食」「外食」に対置する言葉としてマスメディアに登場することも増えた。その内容について朝日新聞の「知恵蔵」では、「総菜やコンビニ弁当などの調理済み食品を自宅で食べること」としている。ちなみに同じ説明のなかで「外食」は「レストランなどの飲食店で料理を食べること」、「内食」は「手づくりの家庭料理を自宅で食べること」と定義されている。

家庭のキッチン

この説明を読んで感じることは「内食」「外食」「中食」を過去の常識でステレオタイプにとらえようとしているなということ。まず「内食」は手づくりの家庭料理でなければならないというのは、いかにも古い。したがって総菜やコンビニ弁当が売上を伸ばすなかで、それらを自宅で食べることを「中食」にしている。つまり料理は手づくりが善という、固定概念から抜け出せていない。

そこでもう少し明確にするため、「中食」は「スーパーやコンビニ、飲食店でつくっている弁当や総菜を購入し、購入店以外で食べること」、「内食」は「食材を自分で調理し食べること」、「外食」は「家の外で食事すること」と場所を特定しない形で説明しているサイトもある。ただいずれの説明を見ても「内食」「外食」「中食」がいま一つよくわからず、ややもどかしい感じがすることも事実である。

食シーンとしての「中食」

ではどのように考えれば「中食」がもっとすっきり整理できるのだろうか。結論的にいえば、調理をする人(店)ではなく、食べるシーンで切り分けたほうが、納得性が高くなるような気がする。

そこで筆者が初めて「中食」を意識した時のことに触れてみたい。1982年当時、私たちは業務の一つとして15~25歳のヤング層50人を対象とした「生活カレンダー」調査を行っていた。これは1日24時間をヨコ軸に取り、タテ軸に「行動」「食生活」「ファッション」「気持ち」などで切った生活行動を記入してもらう定性調査だ。したがって記入しているのがたった一人であっても、そのことが重要な兆しと思われれば、そこから未来が見えるとクライアントに力説していた。

大勢の人々

しかし、1982年に始まった「生活カレンダー」調査も3年めを迎えた1984年になって、本筋ではないかもしれないが、一度定量的な整理もしてみようということになった。調査は1カ月のうちの1週間を記入してもらい、それが1年間(12か月)続く。すると1人のモニターの食機会は間食も含めれば1人当たり、@3.5回×7日×12か月で294回。50人で14,700回になる。そこで、これをとりあえず「家で食べているのか」「外食店舗で食べているのか」「学校や職場で食べているのか」で分類していった。その作業のなかで驚いたのが、内食や外食でない、その他の食シーンの多さだった。ファストフードでテイクアウトしたハンバーガーを公園で食べたり、学習塾の帰りにコンビニでカニパンを買って店の前で食べたりするシーンが膨大にあり、とても内食と外食の二元論では彼らの食生活は語りつくせないと思った。

それがいまから33年ほど前の1984年頃のこと。当時それほど明確な意識はなかったが、内食でもない、外食でもない食シーンがこんなにあると、とても無視できないから仮に「中食」グループにくくって、食シーンを分析してみようと考えたのだ。その後日本人の食に、外食のフードサービスだけではなく、コンビニやスーパーの総菜、食品メーカーのレトルト食品やレンジアップ商品など即食系食品が浸透、「中食」も市民権を得たが、その意味するところは、筆者が「中食」に出会った33年前とは大きな変質を遂げていたことになる。

食事の個食化や生活の24時間化が「中食」シーンを拡大

ではなぜ、わずかな間にこれほど「中食」が増えたのだろうか。これまで触れてきたように、すでに1980年代初頭には「中食」は無視できないほどに多くなっていたが、その後の30年余で「中食」の増加トレンドはさらに加速した。ちなみにこの時期、オイルショックで大きく跳ね上がった日本人の所得水準は、1980年後半のバブル経済とその崩壊、失われた20年を経て所得がシュリンク、長期にわたってトレンド的にはデフレ経済が続いている。

コンビニエンスストア店内

そのような時代状況のなかで、日本人の食シーンで増えたのが「個食」だ。結婚したばかりの夫婦でいえば、まず夫が仕事が忙しくなって平日は帰りが遅くなり、外食か家で食べても夜10時、11時に1人での食事になり、妻と子どもは母子家庭状態になる。子どもが大きくなると、小学校高学年からは塾通いが始まるため、子どもはおやつを食べると塾に向かい、帰りは夜10時頃になる。そうなると3人の家族が全てバラバラに夕食を食べる「個食」化が本格化する。

リーマンショックを機に、サラリーマンの帰宅時間が多少早くなり、家族揃って夕食を食べる機会が増えているともいわれているが、それが主流になっているとはとても思えない。最近では人手不足が続く中、1億総活躍社会の掛け声のもと、女性の就業が増え、今度は誰が夕食を用意するかという別の問題も発生してきている。

もう一つ「中食」が増えた要因は、自宅でもない、外食の店舗でもない場所で食事を摂れるインフラが整ってきたことが考えられる。1970年代後半から80年代初頭にかけては、持ち帰り弁当店やコンビニ、さらにはテイクアウトできるファストフード店舗が爆発的に増えた時期に当たる。その一例を挙げれば、79年2月期に1,094店舗だったコンビニの店舗数は、4年後の83年2月期には4,601店舗まで増加、その後も急速に店舗数を増やしていく。

そしてこのような「中食」に対応できる店舗の増加は、日本人の暮らしを確実に24時間化していく。24時間営業のファミリーレストランに夜中でも若者が集まり、真夜中にコンビニで弁当やサンドイッチを買い、夕食か夜食かわからない食事を職場で食べるサラリーマンも増えた。このような生活がまず大都市で浸透し、少しずつ地方にも広がっていった。逆にいえば、日本人の生活が24時間化していったからこそ「中食」シーンも増えていった側面もある。

「中食」をアクションプランにする方法

「中食」の増加という事態を受けて、新しいビジネス開発の事例も出てきた。コンビニでは北海道のセコマ(旧セイコーマート)がイートインコーナーを設けた店舗を標準フォーマットにするようになったし、スーパーマーケットでも新店、改装店舗を中心にイートインコーナーのある店舗が普通になってきた。これはイートインスペースを設けることで、これまで外食に流れていた顧客のうち、何割かでも昼食時などに集客できれば、新規需要が開発できると見込んでいるからだ。事実スーパーでは、これまでほとんど来店していなかった店舗周辺の職場に勤めている男性が、惣菜売場の弁当でお昼を済ませるなど新しい動きが出てきている。

イートインコーナー

ただ「中食」から新しいビジネス開発をするためには、その定義がぶれていては、発想はよくてもヒットにつながらないこともある。やはり「内食」「外食」「中食」を分類するには、誰が調理したかではなく、どこで食べたかということで分けたほうがいいのではないかと思う。これまでは総菜や炊飯したごはんを買って帰り自宅で食べると、手づくりしたわけではないから「中食」としたり、逆に愛妻弁当は職場で食べても「内食」とされることもあった。

しかし、最近は手づくりの食事と総菜をテイクアウトした食事の差が曖昧になってきている。例えばスーパーで買った刺身の盛り合わせを盛り付け直して食卓に出し、炊きたてのごはんとインスタントみそ汁で食事したとする。主婦の感覚からすれば、刺身を自分のセンスで盛り付け直したから手づくりしたということかもしれないが、これでは総菜を買って帰って盛り付けたのとなんら変わらない。それが一方が「内食」で一方が「中食」となったのでは、販売戦略として「中食」強化を掲げてもブレが大きすぎて戦略が戦略として機能しない。

したがって「内食」「外食」「中食」を図のようにポジショニングするのも一つの方法ではなかろうか。

「内食」「外食」「中食」のポジショニングまず「外食」はフードサービス業の店内で食べた食事だから明確。「内食」は主婦を中心に家族の誰かが手づくりして自宅で食べる食事だけではなく、手づくりメニューと外部サービスの総菜などを組み合わせた食事、総菜をテイクアウトした食事も自宅で食べるから「内食」とすればすっきりする。長男の入学祝いに寿司を出前で取って食べても、自宅で食べるのだから「内食」でいいはずだ。

逆にお母さんの手づくり弁当を学校で食べれば「中食」でいいと思うし、コンビニ弁当や総菜、ファストフードのハンバーガーなどを学校や職場、公園で食べるのも「中食」。スーパーマーケットの総菜をイートインコーナーで食べるのも「中食」でいいはずだ。

そのように考えると、スーパーのイートインコーナーは画期的だったことがわかる。増加する「中食」需要に対応できる場を提供することによって、新たな食シーン開発に乗り出すことができたのだ。つまり従来は、「内食」偏重だったスーパーマーケットの守備範囲は、イートインコーナーによって大きく変わる可能性を秘めている。

執筆:山口 拓二

第13回<予定>「ローカルスーパーのMD『2:6:2の原則』」

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【スーパーマーケットのマーケティング事始 第11回】農産物直売所ビジネスの現在(2)SMチェーン・専門店の取り組み

環境に優しい地場野菜コーナー

道の駅 農産物直売所農産物直売所ビジネスの売上高が1兆円に迫っていることは前回お伝えした通りだ。復習を兼ねておさらいすれば、農産物の直売が増えた一つの要因は、産地での直売所(ファーマーズマーケット、道の駅など含む)の増加にある。真剣に事業展開しているファーマーズマーケットや道の駅では、旅行代理店に営業をかけ観光バスの呼び込みを積極的に行っている。その結果、年齢を問わず女性の多い観光バスが道の駅に着くと、彼女たちは先を争って農産物直売所に殺到、鮮度が良くて割安な野菜を買い込むことになる。帰りの足は確保されているから、少しぐらい多めに買っても平気だ。ご近所におみやげ代りに配れば野菜は喜ばれる。

もう一つの要因は、いまやスーパーマーケットでも直売の野菜が手軽に買えるようになったことだ。1980年代後半から、大手スーパーを中心にその店頭には産地直送野菜が並んでいた。しかし、これらの商品は有名産地の野菜であり、地場野菜ではなかった。その流れが大きく変わったのは、環境問題が関心事となり、地産地消が話題になり始めてから。つまり産地直送であっても遠くから運んでいたのでは輸送に負荷もかかり環境に優しくない。それよりも地元で栽培した野菜やフルーツを地元で消費したほうが、よりナチュラルで持続性の高い仕組みだということになったのだ。

スタンダードになったスーパーの野菜直売コーナー

こうしてスーパーマーケットの青果売場は、バイヤーが青果市場で仕入れた商品、有名産地と契約栽培した野菜、地元の農家が持ち込んだ商品が品揃えされるのが当たり前となった。そのなかで地場野菜は顔の見える野菜として人気があるため、そのことがうまく伝わるように、POPをつけてコーナー展開されるのが一般的になっている。

ちなみにスーパーマーケットが、地場野菜の直売所を設置するには、おおざっぱにいえば三つほどの方法がある。最も手間がかからないのは、地元の農協(JA)にコーディネートを頼んでしまうことだ。するとJAが必要な数の農家に話を通し、毎日必要な量の野菜を生産者が直接納品してくれるようになる。また最近は、農業総合研究所(和歌山市)のように、農家から集めた野菜や果物をIT技術を使って全国のスーパーに効率よく届ける企業が、東京証券取引所のマザーズ市場に上場するほどに力をつけてきており、同研究所の野菜をうまく組み合わせれば、自分たちで農家と接点を持たなくても、地場野菜の直売所をコーナー展開できる。

農家二つめの方法はSMチェーンと農家が個別に契約し、農産物直売所コーナーをつくるやり方だ。例えば茨城県を中心に関東に約160店舗を出店しているカスミでは、そのうち約60店舗で直売所をコーナー展開している。カスミの農産物直売所で自分が栽培した野菜を販売したいと考えた生産者は、まずカスミのサイトに申し込みをし、生産している作物やその量、栽培時期、納品したい店舗など、いくつかの項目をすり合わせたうえで、契約が成立すれば納品、販売が始まる。栽培から収穫、パッケージ化して値付けした商品の納品までを生産者が行い、売価の82~83%が生産者の取り分、残りが手数料や場所代としてカスミのものになる。この比率はJAの直売所や道の駅とほぼ同じだ。

最後のパターンが、SMチェーンと生産者グループが手を組んで農産物直売所を運営するパターンだ。例えば静岡の静鉄グループのSMチェーンであるしずてつストアでは、地元の生産者グループ「静農会」とがっぷり四つに組んで地場野菜・果実の販売に取り組んでいる。静農会は静岡県の東部地区から西部地区までの16グループで構成されており、生産者は約240人いる。しずてつストアの各店舗には「静農会」の青果物が必ずコーナー展開されており、「この季節であれば、静農会コーナーにはあの商品が並ぶ」ことがわかっているので楽しみいしている顧客も多い。特定の生産者グループと組むメリットは、レベルの高い野菜・果物を確保できること。生産者グループに入っている農家は、優れた栽培技術や安全・安心に対する意識を共有した篤農家が多い。

農産物直売所を身近なものにした「わくわく広場」

しかし、スーパーマーケットで地場野菜がコーナー展開されていても、それが直売所と意識されているかどうかはやや疑問だ。確かに生産者の顔写真をPOPに入れたりして、いかにもそれらしい雰囲気になっているが、スーパーで買物する人にとっては、あくまで野菜のちょっと変わった売り方にすぎず、バスツアーで乗り付けたファーマーズマーケットとは別物と思われている恐れが十分ある。

それに対して非日常的なファーマーズマーケットや道の駅での買物を、日常性のなかに位置付直して成功しつつあるのが(株)タカヨシが展開している「わくわく広場」だ。同店は農産物の委託販売をメーンに、自社仕入れの伝統的な加工食品を合わせて販売するフォーマットの店舗。成城石井や北野エース、こだわり屋など高質の加工食品を中心にした専門店は過去にもあったが、委託販売の野菜・果物を前面に出した店舗はこれまでなかった。

野菜このようなフォーマットの店舗をタカヨシが開発したのは、同社の成り立ちに負うところが大きい。もともと同社は千葉のホームセンター(HC)チェーンだったが、1990年代に入って競合店が売場面積1万m²を超える大型店となり、2,000m²前後と狭いタカヨシは競争に埋没、厳しい戦いを余儀なくされた。そこで同社が苦肉の策として取り入れたのが、売場の一部を地元農家に提供して始めた野菜の委託販売。これが予想以上に当たったため、やがて農産物の委託販売を主体とする業態に変わっていった。

タカヨシがHC企業から、現在のような農産物委託販売ビジネスに正式に業態転換したのは7年前の2010年のこと。「わくわく広場」は、最初千葉県内の小型ショッピングセンター(SC)などへの出店が多かったが、やがて大型SCのイオンモールなどへの出店が始まった。「わくわく広場」各店舗の売上は年を追ってアップ、既存店の成長力がSCディベロッパーの間で注目され、出店要請が相次ぐことになった。「わくわく広場」は16年11月現在81店舗まで増えているが、17年2月期は年間30店舗以上の出店が予定されている。このままいけば、同社は17年2月期には100店舗を超えそうだ。

「わくわく広場」が好調なのは、野菜や果物を前面に出すことによって、農産物直売所であることが一目瞭然にわかるつくりになっていること。青果のちょっと変わった売り方に見えてしまうスーパーマーケットはその点不利だ。また生産地に近い場所にあるため、日常的に利用するのが難しいファーマーズマーケットや道の駅と違って、消費者の生活の場に近い大都市近郊のSCに出店していることが「わくわく広場」の存在感を高めている。つまり、これまで大型SCのスーパーマーケットで野菜を買っていた消費者が、鮮度の良さやおいしさに魅かれて「わくわく広場」で青果物を購入するようになり、同社の売上は急伸しているのだ。

「わくわく広場」が伸びれば、同じような発想のチェーンや少し形を変えた業態が出てくる可能性もある。そうなれば農産物流通で、直売の比率がますます高くなることが考えられる。いま主流の系統出荷もその地歩は決して盤石ではない。

執筆:山口 拓二

第12回<予定>「『中食』の誕生」

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【スーパーマーケットのマーケティング事始 第10回】農産物直売所ビジネスの現在(1)青果流通へのインパクト

食品小売業にとっての青果の役割

スーパーマーケットをはじめとする食品小売業にとって、青果部門は昔も今も重要なカテゴリーだ。ポイントの一つが、青果は季節感を打ちだしやすい商品ということだ。ハウス栽培が普及して旬がなくなってしまった野菜も多いが、露地物を中心に季節を映した売場をつくれるので、顧客にシーズンの変化をアピールすることができる。消費者も青果の売場を見て季節の変化を感じ、季節感にあふれたメニューを組み立てることもある。

また最近のように健康意識が高まってくると、サラダや煮物など野菜中心のメニューを一品は出したいと考える主婦が増えている。それだけにレタスなどの葉もの野菜やトマト、パプリカなどのサラダ素材、ゴボウ、レンコン、里いもなどの根菜類の品揃えと適正価格での提供が、スーパーマーケットの優劣を決定づける。

青果のチャネル別売上構成を見てもスーパーマーケットのウェイトは大きい。2014年の「商業統計」で総合スーパー、食品スーパーの青果の売上高を見ると、1万4,000店舗強で2兆8,200億円程度になっている。それに対して野菜・果実小売業―いわゆる八百屋の売上高は、1万5,500店舗強で7,954億円と大きな差がついている。

つまり青果の販売では、業種店の八百屋からスーパーマーケットが売上を奪い、トップチャネルとなって久しい。しかし、最近注目されているのが、ファーマーズマーケットや道の駅に代表される農産物直売所だ。農林水産省ではその実態を探るため「6次産業化総合調査」を実施している。その最新版である2014年調査によると、農産物直売所の事業体数は23,710まで増え、年間販売金額は9,356億円と1兆円に迫っている。いまや青果・果実小売業を追い抜きスーパーマーケットに続くチャネルとなっているのだ。

農産物直売所成長の軌跡

野菜の直売農産物直売所の歴史は意外と古い。その始まりは終戦後すぐの時代、規格外の商品を自宅近くの無人販売所で販売したことにさかのぼる。今でも大都市近郊を散歩していると、朝収穫した野菜などを100円均一で販売している光景によく出くわす。そうした経験を積み重ねてきた農家のグループや農協女性部などが、もう少し本格的にやりたいということで、場所を確保して農産物直売所を展開し始めた。それが1975年頃のことといわれている。

当初は中小規模兼業農家や高齢農家などが主体となり、農村地域活性化を目的に地域住民が協力してつくったものが多く、農協が積極的に関わったものは少なかった。その流れが変わったのは1997年にJAいわて花巻が開設した「母ちゃんハウスだぁすこ」の成功。これを機に農協が農産物直売所ビジネスに乗り出す事例が増えた。同時に大規模農産物直売所として「ファーマーズマーケット」という概念が打ち出され、意識の高いJAを対象にファーマーズマーケット戦略研究会も設立された。

このように見てくると、農産物直売所がビジネスとして成立したのはいつと断定することはなかなか難しい。しかし、「母ちゃんハウスだぁすこ」が、直売に対するニーズを顕在化させたのは間違いのないところであり、高度成長期が終わりを告げ、成熟期にさしかかった頃の1990年代半ばに、農産物流通も転期を迎えたのだ。

農業生産関連事業別 年間販売金額農産物直売所 運営主体的年間販売金額

単品大量生産から多品種少量生産へ

では農産物直売所ビジネスは、農産物の流通において、従来の仕組みにどのようなアンチテーゼとなったのだろうか。最大のポイントは系統出荷の矛盾を白日のもとにさらしたことである。系統出荷とは農協の組合員(農家)が、自分の属する農協を通じて農産物を出荷すること。そのルートは農家―農協―全農―中央(地方)市場ー仲卸業ー小売業―消費者となる。これだけの手を介するために、農産物が消費者の手に届くまでに4日ほどかかる。

またこの系統出荷では、全国各地の農協は効率を追求するために、栽培品目の集約を図った。各農協はそれぞれの地域の気候風土や出荷出来る季節、出荷する市場をにらんでキャベツ、キュウリ、レタス、白ネギ、トウモロコシなど品目の特化を図っていったのだ。つまり産地ブランドの育成だ。大田市場へ行くとそれぞれの産地ブランドの農産物が、ダンボールケースに入ってうずたかく積まれている。こうして全国の農協が栽培品種を集約、まるで工場で野菜をつくるような生産方式が主流となった。その結果、本来多品種必要な野菜は、一地域では自給できず、産地間を動きまわる非効率的な流通を余議なくされるようになったのだ。

それに対して農産物直売所に出荷する農家は、多品種の野菜を少量生産する必要があり、農協を通じて出荷する場合とは根本的に発想を変えなければならない。例えば3反歩(2,975m²)の畑を持っている農家では、圃場を30~50に区分して、さまざまな品種の野菜を少しずつ栽培し、近くのファーマーズマーケットや道の駅、スーパーマーケットの地場野菜コーナーに持ち込むことになる。
この出荷方法のメリットは、収穫から品出しまで時間が半分もかからないため、消費者は完熟野菜や果物を最もおいしいタイミングで購入することができること。したがってトマトやいちご、トウモロコシなど糖度が味を左右する品目は、そのおいしさを知っている消費者が争って購入、あっという間に売り切れてしまう農産物直売所も多い。

農産物直売所ビジネスのメリット

農産物直売所での販売は、生産者にとってはメリットが大きい。まず重要なのは自分で野菜や果物の価格を決定し、販売責任が取れること。系統出荷では農家は野菜をつくるだけで、価格は市場任せなので天候や作柄に左右されることも多い。例えばキャベツなどが出来過ぎて、輸送費も出ないから畑で処分される様子がテレビのニュースで流れたりするが、これも見込み生産ゆえの悲劇だ。

それに対して農産物直売所への出荷では、自分は有機農産物の認証を得ているから、同じホウレンソウでも一把30円高くして出荷するとか、味の評価が高くて名前が知られているから20円高くしても売れるというようなことが起こる。ただ多くの生産者は、東京・大田市場の相場をネットで調べて仲間内で情報を共有し、JAや市場の仲卸の手数料を差し引いて、値付けすることが多い。そのため各種手数料が差し引かれた野菜の価格は、スーパーマーケットや八百屋よりも安く「この鮮度の野菜がこんな価格で変えるの?!」というサプライズが生まれることになる。

生産者にとってもう一つのメリットは、大量に生産しなくてもいいため、高齢化で体力が落ちても現役の農家でいられること。ホウレンソウやレタス、ネギなどの軽いものであれば、70代になっても出荷出来る。そのため60歳で定年になったサラリーマンや教員が、親の介護や家の管理もあるからと地元に戻り、体力の許す範囲で農業に復帰するケースも増えている。高齢者だけではなく、農業にあこがれる若年層が、畑の賃貸をJAに斡旋してもらい農業に参入することも容易になった。まだ地方の人口増を促すほどのパワーにはなっていないが、うまく制度設計すれば、地域活性化になる可能性も秘めている。

執筆:山口 拓二

第11回<予定>「農産物直売所ビジネスの現在(2)SMチェーン・専門店の取り組み」

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